これは現在進行形の依頼者(勾留中の被疑者)から受けた報告である。
依頼者が包括的に黙秘権を行使していたところ、業を煮やしたのか、検察官が、「ゆず」の「栄光の架橋」の歌詞を「これが私の一番好きな曲です」といって朗読し始めたという。

歌詞を朗読する・・・取調べというのは、そういうものではないだろう。
対等な被疑者の主張に耳を傾ける場、だと観念すべきところ、屈服させる、心情的に追い詰める、ということを旨としているから、こういう珍妙なことをやり出す。
日本の取調べが後進的だというのは、国際的にも常識だと思うが、果たして国際人権は、お気に入りの歌詞を朗読し出す取調べ手法をどう見るのだろうか。興味深いところである。
取り調べの可視化に反対する勢力の言い分として、「人間と人間のぶつかり合いを録画の前ではやりづらい」というのがある。上記も差し詰め、人間と人間のぶつかり合いのつもりなのだろうが・・驚くことにこれを録音録画の前でやっているのだと言うから恐れ入る。自分がおかしなことをしている自覚すらない。

なお。この事件では、「みんなあなたの説明を聞きたがっている」「本当は話したいことがあるんじゃないか」の類の供述強要が続いている。
そこに引きつけてみると、前掲の歌詞は、「人知れず流した泪があった」「思い出せばこうしてたくさんの支えの中で歩いて来た」等と歌われてる。
沢山の人に支えられてここまできたんだから、弁護人の言うことなどに耳を貸さず供述しなさいよ、留置場で一人、涙しているんじゃないの?とネチネチやっているというのが実相だろう。
立派な供述強要、黙秘権侵害の違法である。

(弁護士 金岡)