起訴前勾留が遂に5か月を超えた依頼者に対し、更に10日間の勾留延長(8件目)が認められるという異常事態に、剰え延長理由に「被疑者取調未了」が掲げられているという事態を目の当たりにし、なかなか平静では居られないところである(なお、延長理由は他にも掲げられている)。
依頼者は5か月の間、全てを黙秘で通しており、今更、供述に転じる見込みなど、ないと断じて良い。
では、令状担当裁判官は、何を考えて、「被疑者取調未了」が勾留延長を正当化すると考えたのだろうか。
被疑者取調未了故に終局処分が決定できないとすれば、裏を返せば、あと10日の間に被疑者取調べをやらなければならないということである(やらなくてもいいなら、それを理由に勾留延長が「やむを得ない」というのは理屈が通らないからである)。
令状担当裁判官は、黙秘している被疑者に対し、被疑者取調べを許す裁判官だということになる(黙秘権行使の意思確認だけなら勾留延長を正当化する理由にはなるまい)。黙秘権行使の意思確認を越えて執拗に供述を迫ることが黙秘権侵害になる、という基本的理解が出来ていない裁判官がいるというのは恐ろしいことだ。
被疑者が黙秘し、供述が得られていない場合、捜査機関としては「黙秘を前提に終局処分をしなければならない」筈である。「黙秘を前提に終局処分をしなければならない」のであれば、10日延長したところで事態は変わらないから、延長を認める理由にならない。子どもでも分かる理屈だと思う。
従って、裁判所は、「あと10日経っても黙秘のままだろうから、それを前提に終局処分をどうぞ」という意味で、勾留延長を不許可にするべきだった。そうせず、被疑者に「黙秘しているから、あと10日、拘束するよ」と言い渡すというのは、黙秘権行使に対する不利益取り扱いであり、違憲であろう。「あと10日、拘束されたくなければ、黙秘権を行使しない方が良い」という呼び水を、よりにもよって裁判官が投げかけるというのはどういうことなのだろうか。
準抗告申立書には原決定を「箍が外れている」と表現した。
率直に言えば、外れているどころの騒ぎではない、と思う。
準抗告の結果はお察しだが、本稿の主題との関係では、「被疑者取調未了」という延長理由については一切触れず、他の延長理由との関係だけで延長を正当化した、と指摘しておこう。「被疑者取調未了」部分については言い繕いようもなかったと受け止めてよかろう。
(弁護士 金岡)