ゴーン氏の件で、「否認事件で整理手続前に保釈されるのは異例」「今回の準抗告棄却決定は先駆けとなる価値がある」等と報じられている。
私も、特に否認事件における裁判所の身体拘束への固執は異常であり、最早、病的という事態が長らく続いていることには全く異論はないのだが、さはさりながら、「否認事件で整理手続前に保釈されるのは異例で、今回のが先駆け的である」まで言われると、実証的な数字を挙げるまでもなく言い過ぎである、と思う。その手の論評を出している刑訴法学者などもおられるのだが、実務を御存じなく、黴の生えた聞きかじりを元に意見を述べておられるのだろうと見る。
報道から知る範囲では、ゴーン氏の起訴は最終分が1月11日。とすると、3月6日の現在、検察官請求証拠の開示くらいまでは進んでいるのではないか(整理手続になっているなら証明予定くらい出ているだろう)。この認識が正しいとすると、整理手続に付したかどうかはさして問題ではなく、公判準備段階の序盤に入ったというのが正しかろう。
否認事件で、公判準備段階の序盤に入ったあたりで保釈が通ることは、そこまで珍しいものではない。現在進行中の担当事件(否認事件で保釈されたものに限定)を中心に思い起こしても、10件中4件くらいは、公判準備段階の序盤(起訴後2~3か月)で保釈されている(例えば本欄昨年7月5日のがそうである。そういえば、その事件の原却下決定はキッチンタイマー裁判官様の判断案件であったことを思いだした。)。
更に言えば、残りのうち半分くらいは、起訴直後に保釈されている(本欄本年2月24日もそうである)(逆に、もう半分は、そこそこ公判準備が進まないと保釈されなかった。中には、服役中の共犯者尋問が終了するまで保釈されなかった事案もある。服役中の人との口裏合わせなど、相当、難易度は高いと思うのだが・・。)。
いわゆる松本論文が世に出てから、保釈の焦点は如何に準備手続の序盤で保釈させるかに移った感があるが、その発想を更に上手に活用することで、起訴直後の保釈が得られないでもない。一般論として否認事件の起訴直後の保釈見通しを問われれば、「争点の所在と、生活環境にもよるが、裁判官運に恵まれれば、やってやれないこともない」くらいの感覚を持っている。
従って、今回の報道の論調は頂けない。寧ろ、「否認事件で整理手続前に保釈されるのは異例」で滅多にないこと等という誤った横並び意識を裁判官に流布させてしまわないか、早々に諦めてしまい「取りあえず出してみました」といった、真摯な準備を怠る弁護士を更に増やしやしないか、という危惧感が強い。
繰り返しになるが、否認事件における裁判所の身体拘束への固執は異常である。固執と言うべきか、言いがかり(か、全くの思考停止)としか思えない「罪証隠滅のおそれ」を振り回して保釈を拒む実情があることは間違いない。報道から見る限り、ゴーン氏にも、恐ろしいほど過剰な監視条件が付されてるようであり、そこまでしなければならないのか?は問われるべきだろう。
ただ、そのことと、今回の保釈の時期が言うほど異例ではないと言うこととは、分けて議論しておくべきだ。特に弁護士は、今回の報道群を真に受けず、起訴直後から工夫を凝らし、それなりの成算をもって保釈を求めていくべきは当然である(職務基本規程47条:弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努める。)。
(弁護士 金岡)