久々に、これは良いと思った保釈審理を取り上げたい。
なお、結果を諸手を挙げて褒めるわけではない。あくまで審理の在り方の議論である。

事案は、本欄本年2月18日で取り上げた事案の続きであり、一言で言うと、起訴直後の第1次保釈請求が却下(準抗告も棄却)されたため、再度の保釈請求において保釈条件を追加する提案をし、一週間前の保釈却下を覆した(検察官準抗告棄却)ものである。

第2次保釈請求後、裁判官から電話があり、主張の要点の確認と共に、その問題意識が示され、「・・・」という保釈条件はどうですか、的な打診があった。その保釈条件は、全く考えていないわけではなかったが、そこまでは、という思いもあり、突き詰めていなかったものの、裁判官からそう言われては応えなければならないと、一晩貰い協議を尽くし、その宿題を解決する保釈条件の提示に漕ぎ着けた。裁判官は、更に電話聴取書を作成し(検察官からの事情聴取がされていたことは教えて貰えなかった)、検察側が提出してきた書面を求意見の形で此方にファクス(!)し、弁護人に意見の補充を求めた上で、最終的に保釈を許可した。

さらっと書いたが、これだけ丁寧な審理がされることがそうあるだろうか、という思いがある。

まず、主張の要点を確認しようという姿勢が良い。なにしろ起訴直後の保釈請求は、裁判所の検討する記録の全体像を分からないままに起案するので、全体から見れば弁護人の主張が分かりづらくなることは有り得る。その場合に、分かりづらい物を不出来と片付けるのではなく、仕組みの上で無理からぬものと考え、きちんと消化しようという姿勢は、好ましいものだ。

次に、裁判所の問題意識を率直に開示するというのも重要だ。なにしろ、憲法の原則からすれば、可能な限り、保釈をしなければならない。裁判所の問題意識が伝われば手当てされようものを、そうせず、手当てされないから却下する、では、その職責に背くものだろう。参考までに、令状実務詳解1011頁でも、保釈条件の設定にあたり、「弁護人からは、裁判所の問題意識をうかがい知れないのが通常であって・・働きかけるのが相当な場合もあろう」とされている。
こういう経過で翌日送りになるのは、弁護人としても合理的だとの評価に至りやすい。依頼者にも説明しやすい。理由も無く翌日送りに固執し、書記官を盾にして貝のように押し黙ったまま却下に突き進んだ、どこぞの裁判官とは大違いだと言うことが分かるだろう。世が世なら、ではなく、裁判官籤引きの結果次第では、1週間前に釈放されていたものを、と考えると、審理の巧拙の相違は、実に罪深いことである。

更に、検察官の意見を弁護人にファクスし、遅滞なく求意見する、というのも適切な措置である(欲を言えば検察官への事実調べ結果もファクスしてほしかったが)。原決定が尊重される実質は、それが噛み合い充実した審理を経たものであるところに求められるはずだ。であれば、双方に主張疎明を尽くさせる訴訟指揮は当然に好ましく、逆に、そうした措置を経なければ、結果がどうあれ不意打ちされた感が残る。
前掲詳解1099頁でも、弁護人→検察官→弁護人と、主張や疎明の往復をさせ、一定程度の時間をかけてでもきちんと審理することが、結果的に適正円滑な判断に結実するのではないかとの認識が示されているが、至当である。

例の如く例によって、褒める場合は顕名にしづらいので名前は伏せておくが、ここまできちんとした保釈の審理というのは、近年、記憶にない。

なお、贅言かも知れないが、第1次保釈請求の準抗告審の理屈は、第2次保釈請求の許可決定に踏襲され、故に保釈条件が嵩上げされた感がある。これに対する検察官準抗告審は、当初からの弁護人の主張に同調し、(嵩上げしたから判断を変更したのではなく)第1次保釈請求の準抗告審の判断理由を全否定していた。つくづく、籤引きの恐ろしさである。

(弁護士 金岡)