これは私の担当案件ではないが、長野地裁松本支部2021年4月20日決定は、飯田簡裁の接見等禁止決定について、「しかし、これらを踏まえても、被疑者と弁護人等以外の者との間で、糧食、寝具、衣類及び現金、被疑者が収容場所において購入可能な日用品、食料品類及び書籍(ただし、書き込みのないもの。)を除く書類その他の物の授受を禁止することは、罪証隠滅を防止するという刑事訴訟法81条所定の目的からして過剰なものであり、必要であるとは認められない」として「書類(公刊されている書籍、雑誌及び新聞のうち書き込みのないものを除く)」以外の部分の授受の禁止を不適法とし、変更した。
つまり飯田簡裁の原決定が、被疑者と弁護人等以外の者との間で、糧食、寝具、衣類及び現金、被疑者が収容場所において購入可能な日用品、食料品類及び、公刊されている書籍、雑誌及び新聞のうち書き込みのないものの授受がされることまで、刑訴法81条に基づき禁止していたが、これが取り消された、ということである。
この手の決定、まだ絶滅していなかったんだ・・と感心している場合ではない。
これが思考停止の極みであることは疑いようもない。
例えば被疑者が収容場所において購入可能な日用品、食料品類を、その知人が指定業者を通じて購入の上、差し入れることで、罪証隠滅や逃亡に繋がることが起こり得ないことは誰の目にも明らかであろう。
原決定の裁判官が、熟慮の末、被疑者が収容場所において購入可能な日用品、食料品類を知人が差し入れることを認めると罪証隠滅なり逃亡なりが具体的に有り得ると結論したと言うことは、まず有り得ない。
原決定裁判官は、全く何も考えないまま、検察官の書式をそのまま採用したか、あるいは裁判所の伝統的な書式をそのまま採用したのだろうこと請け合いである。
自分の公権力行使が被疑者の日常生活にどのような負荷をもたらすのか、それを上回る要請が本当にあるのかを、具体的に考えようとしない裁判官が令状裁判を行う、というのは、実に不幸なことである(もし飯田簡裁界隈で、上記の伝統書式が脈々と受け継がれてきていたとするなら、それを放置していた管内の弁護士も同罪だろう)。
私は、余りにひどい裁判に対して上級審で逆転した場合に、時に、原裁判官に上級審の裁判書を送付して反省、当事者への謝罪を促している(御返事を頂いたことは未だかつて一度も無い)が、裁判所内に、(裁判官の独立を考慮しても)この手の余りにひどい裁判について、振り返り反省する仕組みは備わっているのだろうか(それとも、一定方向の裁判に誘導しかねないこの種の仕組みを設けることは、やはり禁忌なのだろうか)。
(弁護士 金岡)