本欄では、よく、身体拘束にかかる裁判の審理の在り方を取り上げている。一件記録を保有する検察庁、これを借り出す裁判所に比べ、圧倒的に情報量に不足している弁護側に、いかに対審構造的な攻防機会を保障し、不意打ち的な不利益判断を受けさせないようにするか。また、これと同時に、いかに速やかな審理を遂げるか。検察官意見の自動交付(且つファクス交付)一つとっても、一介の弁護士がぶつくさ文句を言うだけでは改善の兆しも見えないが、言わないよりはましというものである。
さて、本欄でお馴染みの問題意識として、裁判所の安易な「翌日送り」「週送り」がある。ひどいときには、金曜の検察官抗告に対し、月曜に送られて抗告棄却、釈放となり、「それなら土曜日にやれよ」と思わざるを得なかった。これらは畢竟、残業(休日出勤)を嫌忌するものであろう。勿論、裁判所職員にも「ワーク・ライフ・バランス」は必要であるし、土日にお子さんの行事が入っていると言うこともあるだろうが、税金で運営されている、しかも強度の人権侵害が可能な組織は、組織として、人員を補充するとか、当番制にするとか、幾らでも工夫の仕様はあるだろう(裁判所だけが、ごく一部の業務分野限定でも「24時間営業」が不可能とは言わせないし、現に逮捕は24時間営業である)。
現在進行中の保釈案件でも、やはり、このあたりで揉めた。些細な問題に映るかどうかは人次第であるが、裁判所に問題意識をもって貰う(及び弁護士層には是非、裁判所に問題意識を持たせる上で、諦めず文句を言ってほしいと思う)ため、意見書を公開しておく。
(弁護士 金岡)
(申入れの趣旨)
検察官意見を弁護人が検討し、所要の補充を行う(若しくは行わないと決定する)までに必要相当な時間を確保する必要があることについて、裁判所には認識を深めて頂きたい。
(申入れの理由)
1.現在、裁判所は、頭書事件について二度目の検察官への求意見中と承知している。
求意見の趣旨は、弁護人が夙に問題としている、検察官の証拠開示時期、主張構造及び立証構造が明らかになる時期の見通しを明らかにさせることにあるものと思料され、そうであれば、1日裁判が延びようとも、起訴後の対審構造下で双方の主張を噛み合わせ、充実した保釈裁判の審理を行うものとして望ましいことであると考える。
2.ところで、このような充実した審理の上では、無論のこと、検察官意見に対し、弁護人の検討機会、所要の意見書作成機会を十分に確保することも不可欠となるところ、現状、裁判所は検察官意見を自動的に弁護人に交付する扱いにしていない(仮に検察官への求意見に際し、弁護人の各種書面が添付されているとすれば、不公平な扱いである)ことから、弁護人は、検察官意見について、予め謄写請求を行い、謄写完了後、これを(多くの場合、事務局が)弁護士会の協同組合まで回収に行き、その上で、(必ずしも事務所にいるとは限らない)弁護人に回付し、弁護人の検討や書面作成を経て、提出に及ぶ、という工程を経る。
この工程には、当然ながら、検察官意見の提出後、数時間を要するのであり、裁判所は、弁護人に不可能を強いることなく、充実した審理のため、適切に「待つ」必要があることを理解しなければならない。
3.本件の場合、25日14時59分に、裁判所書記官から「検察官意見に対し追加の意見書を出すか・・・出す場合は17時までに提出頂ければ助かります」との連絡を受けたが、その時点で、弁護人は検察官意見の謄写が出来ていなかった。
丁度同刻に、「至急」で依頼した謄写が完了したと、協同組合から連絡があり、事務局が回収の上で当弁護人にこれをデータ送信したのが、15時40分である。
弁護人は、前記書記官からの電話に対し、即時(15時05分)、折り返し架電し、要旨「これから検察官意見を回収に行くこと」「弁護人の検討着手は早くて16時からになること」「意見書の要否の判断、提出する場合の書面作成を考えると17時まで時間がほしいこと」を各説明したが、他の用事を一旦脇に置いて急いでも、現実的にはこれが最速である。
なお、弁護人が最終的に追加意見書を提出したのは16時59分であり、弁護人は約束を守っている。
4.以上で述べたとおり、裁判所は、恰も、検察意見を謄写に回せばすぐにでも弁護人が補充意見を提出できるかに錯覚しているようだが、それでは認識が甘く、裁判所の希望した「17時」に間に合わせるため、相当に無理を強いてるということを自覚頂きたい(弁護人としては、17時を過ぎれば翌日送りになりかねず、被告人の釈放が遅れることを懸念するから、前記17時指定が合理的かどうかはさておき、それに間に合わせるよう努力せざるを得ない)。
なお、当弁護人は、16時41分、裁判所に架電し、要旨「あと10分ちょっとで意見書をファクスできます」と伝えていたが、裁判所書記官は、16時55分になり、「意見書がいつになるか分からないので判断は明日送りにする」という、傲慢な電話を寄越した。
もともと、17時までに提出してほしいと時間を指定したのは裁判所の方であり、弁護人は、それに間に合うように作業し、状況を都度、報告もしていた。にもかかわらず、16時55分に、いきなり、意見書提出見通しが不明であると決めつけた上に翌日送りにするというのは、傲慢といわざるを得ない(弁護人からすれば、「17時」というのは、結局、合理的審理期間から算定されたのではなく、残業したくないという趣旨であると受け止めた。釈放のかかる裁判よりも、残業回避を優先するというのは、権力行使における謙虚さがなく、傲慢というべきである。)。
裁判所には、弁護人の補充意見の実務に対し認識を深め、上記のような傲慢な姿勢を反省するよう、求める。
以上