これは大した話ではない。
少なくとも当たり前でなければならない話である。
大まかに言うと次のような経過を辿った。
保釈中、第1審判決の6日前に骨折した被告人は、4年の実刑となった。
控訴保釈をするも却下。抗告するも棄却。
この時点で、うちに話が来て受任した。
控訴保釈申立書を見ると・・なんと骨折のことが記載されていない。抗告申立書には骨折のことに触れられていたが、診断書一つ無く、「けがの治療を考慮しても」と、抗告審決定で一蹴されていた。
しかし、である。
依頼者によれば手術の必要があるという。
ことの真偽を主治医に確かめると、確かに原則手術適応、しかも手術しないと後遺障害が残るおそれも高いという。
つまり「けがの治療」どころの話ではなく、そのことを主治医に面談して聴取書を作成し、レントゲン写真も貰い・・医療の必要性から逆転に漕ぎ着けたのである。
きちんと接見し、事情を詳しく、具体的に聞く。
裏付け資料を的確に作成する。勿論、身元保証書なども抜かりなく更新する。時間との闘いではあるが、原則、直接面談する。
基本中の基本なのだが・・前任の仕事ぶりには悪い意味で驚かされた。仮に裁判実務に疎く「一審で保釈だったんだから大丈夫だろう」という油断があったにしても、擁護できる事情はない。
かくして、4日前に抗告まで棄却された保釈を、無事、逆転に漕ぎ着けた。というだけの話である。
折角なので、余談を二つばかり。
4年の実刑と言えば、保釈事件の中では長期実刑に位置付けられるようである。しかし同じくらいの実刑事案の上訴保釈の事例も無論ある。
この程、上梓した「保釈を勝ち取る」掲載事例を早速引用して、次のように論じた。「名古屋高決2019年10月7日は、懲役3年2月の実刑判決を受けて上告中に交通事故により負傷した被告人について、実効的な罪証隠滅が困難であること、逃亡見込みに乏しいこと、そして通院加療の必要性から、金500万円の保釈保証金により裁量保釈を適当と判断し、保釈を認めなかった原決定を取り消している(現代人文社「保釈を勝ち取る」223頁、事例32)。」
もう一つ。
検察官意見は「不相当であり速やかに却下すべき」であった(「著しく」に次ぐ強い意見であろうか)。しかし抗告はされなかった。
案外正直だな、と思ったのは、手術の必要性を巡る論争下である。名古屋拘置所は手術不要と判断している、という聴取書を提出されたのだが、そこには要旨「医務課では本症例についての知見がありません」と記載されていた(突き指に伴う剥離骨折であり、特に珍しい症例でも何でも無いのだが、それはさておく。)。或いは後遺障害の危険性の判断を裁判所に押しつける戦略かも知れないが、正直に書かれていたお陰で、医学論争を制することが出来た(と同時に、名古屋拘置所の医務課は、この程度の専門性すら持たないと言うことも、今後の裁判実務に於いて参考になろう)。
(弁護士 金岡)