先日、本欄で、「A罪B罪の勾留を争ったところ、B罪での勾留が適法であることが明らかだとしてA罪に触れないまま準抗告を棄却された例」を紹介し、事件単位原則及び実質的根拠から考えて判断の遺脱だと論じたところ、大阪の川合晃央弁護士から、片方だけ認容して勾留自体は維持された実例を御紹介頂いた。
(御教示頂いたこと、及び本欄で取り上げることを御快諾頂いたことに、改めて御礼を申し上げる)
大阪地裁堺支部第1刑事部2018年6月23日決定
主文は、
1.原裁判のうちC罪で被疑者を勾留した部分を取り消す
2.本件勾留のうち、C罪にかかる部分を却下する
3.その余の本件準抗告を棄却する
というものである。
「その余の部分」ということで、D罪の準抗告は棄却されているわけである。
なお、C罪の取消理由は、その被疑事実の記載が犯罪の具体的特定を欠くという、なかなかに珍しいものであった。
本題に戻ると、どの事件で勾留されているのか、ということに敏感であるのは、令状裁判官の基本と言うことが良く分かる。D罪で勾留するのだからあとはどうでもいい、というのでは落第だ。
後日談として、前掲決定は、C罪の勾留を取り消すだけの処理をしており、私が前回書いたような、勾留を全部取り消して改めてD罪だけで勾留し直す、という処理はしていない。確かに、事件単位からすれば、違法な方だけ取り消せばよいのだが、違法な方だけ取り消された勾留状はどうなるのだろうか・・・?というと、川合弁護士によれば、勾留状が使い回され、勾留状だけからはC罪の勾留が取り消されたことすら全く分からない状態のままで、(D罪の)勾留延長まで追記された、ということである。
勾留状単品では、準抗告審の判断が一切、反映されておらず、勾留状単品で見たとき、C罪D罪両方で勾留しているようにしか読めない勾留状の使い回しは、手続に求められる厳格さに照らすと相当ではないと思われる。
尤も、だからといって全部取消処理が必要なのか、単にC罪の被疑事実や罪名に抹消線を入れて対応すれば良いのかは別論であろうが。
何れにせよ、知っておいて損はない話である。
(弁護士 金岡)