「新生」名古屋高裁刑事第1部に待望の無罪判決、との情報を得たので紹介する。

いわゆる郵送型の薬物密輸で、Aから荷物の受取人の紹介を頼まれてBを紹介した被告人が、その荷物に入っていた覚醒剤について共犯責任を問われたものである。

第1審(裁判員裁判)は、①あえて第三者方に送付して受け取らせるというのは相当不自然で怪しいものである。②被告人とAとの関係からすれば、不自然な点は詳細を確認するはずであり、最終的に紹介に応じたと言うことは違法なものが入っていると認識したとみるのが自然である。③違法なものとして覚醒剤を含む違法薬物も想起できたはずである。として、故意を認定した。

これに対し、控訴審判決は、①について、そのような受け取らせ方には様々な事情があり、秘密の交際相手に関するものとか、違法なものとしても、わいせつ物、盗品、コピー商品など、あり得る。Aからの依頼の背景を踏まえて様々な可能性を考えるべきである、と批判し、②について、①の前提が崩れたと一蹴し、結論、違法薬物を含む違法なものが入っている可能性を認識したはずであると推認できる程の強い推認力は認められない、一審判決には論理の飛躍がある、とした(吉村典晃裁判長)。

並べて読めば、第1審判決に論理の飛躍があることは自明だろう。
不自然で怪しいといっても、色々あり、そこに違法な薬物「までが」含まれることについて積極的な事情が必要だというのは、常識的な帰結である。第1審判決の「認識したはずだ」は、仮定に仮定を重ねた一仮説に過ぎず、合理的疑いを超えた、間違いなく確からしい、そう考えないと説明が著しく困難な事実関係がある、といった証明基準に耐えるものではない。

第1審は懲役10年とした。ありうる程度の仮説で10年、服役させるという感覚、その評議を覗いてみたいものだと思う。証明基準についてどのような評議がされたのか、反対仮説を容れる余地のある一仮説で有罪にすることについて疑問が生じなかったのか。
評議がブラックボックスのままだと、誤判原因の外部的検証は不可能である(内部的検証はどうなのだろうか。確定すれば少なくとも地裁の裁判官は反省会をするだろうか?)。そうすると歴史は繰り返すに相違ない。進歩のない制度設計のまま、冤罪被害者は、「なんとか頼み」を繰り返さなければならないのだろうか。

なお、奇しくも、第1審弁護人にも控訴審弁護人にも、愛知刑事弁護塾の所属者が含まれていた。

(弁護士 金岡)