逮捕されれば被疑事実の読み聞かせがある。勾留されれば勾留状謄本を謄写して被疑事実を入手できる。被疑事実を知ることは防御の大前提であり、例えば勾留状謄本なしに勾留準抗告を起案しろと言われても困る。

では任意段階で被疑事実を知る権利はどうなのか。
近時、某MLで話題となったので、書き留めておきたい。

刑訴法上、被疑事実を知る権利が明文で定められていないことは明らかである。任意段階では裁判所は関与しないから、裁判書類を通じてどうにかなるというものでもない。
結局、法の不備である。
被疑事実を知ることが防御の大前提であることは、強制捜査段階であろうと任意段階であろうと違いはない。法律相談にお越し頂いても、被疑事実が良く分からないでは、助言をするのも難しい。被疑事実を知る権利保障がされていないことは手続保障に反しており、弁護人選任権(実質的な弁護を受ける権利を含む)を侵害しているという他ない。

近時の経験として、愛知県警の事案であるが、どちらかというと供述することに理のある事案ではあったものの被疑事実次第では供述しない選択も考えられたことから、警察に対し被疑事実を教示するよう申し入れ、「コピーは渡せないけど読み聞かせなら」ということで、おそらく告訴状か何かの被疑事実の読み聞かせを受けた案件がある(被疑者本人と一緒に警察署の玄関先で拝聴したが、被疑者のプライバシーや名誉は粗略に扱われている)。当該部分だけのコピーを作れば良いのになぁと思ったものだ。
また最近の名古屋地検特捜部の案件で、依頼者が出頭を求められたので被疑事実を確認させるよう求めたところ、やはり告訴状の被疑事実部分と思われるものを読み聞かせてくれた、というものがある。

経験としては以上に尽きるが、手続保障の分野に於いて、属人的な合理的裁量の機能に期待する程、愚かしいことはない。苟も被疑者扱いするのであれば、いわば強制捜査を受ける崖っぷちにあるその立場に鑑み、一律、被疑事実の告知聴聞を受ける権利を保障することは余りに当然のことと思われる。
今後、在宅事案の弁護人立会に向けて制度論も盛り上がりを見せるだろうから、再審手続法と並び、任意捜査手続法も、きちんと整備していくことが肝要であろう。

(弁護士 金岡)