被疑者ノートに対する留置管理の不当な干渉に対し国家賠償を命じた高裁判決が確定したとのことであり、ここに紹介する。
当事者の古田弁護士のウェブサイト記事は末尾に貼り付ける。

事案は、被疑者ノート(用の普通ノート)の内容を留置管理官が確認し、抗議を受けてもなお確認し、更に(外国人被疑者であったが)英語での記載を禁じ既存の英語部分を墨塗等で破棄するよう求めた各行為の国家賠償請求である。
第1審は英語禁止は秘密交通権侵害に該当しないとしたが、控訴審は全部を秘密交通権侵害と認定した(名古屋高裁民事第2部、2022年2月15日判決)。

被疑者ノート検査の違法性について、控訴審裁判所は被疑者ノートの位置付けを原審同様「接見時における口頭の意思疎通を補完し、またはこれと一体となるもの」として被疑者ノートへの検査を制限的に解釈することが許容されるとし、信書検査に関する被収容者処遇法の規定に「なぞらえるとしても」弁護人発の信書になぞらえるべきであるから制限的に解釈することが被収容者処遇法と整合すると指摘した。
信書論争は少々脇道の感があるし、絶対的な秘密が保障されるべき秘密交通権を補完し若しくは一体という位置付けを与えるならば(もとより正当な理解である)、必ず何かしらの検査に晒される信書側に引きつけるよりは、無立会接見の方に引きつけるべきであろう。その意味で、進歩的ではあるがまだまだ弁護人の要求水準には及んでいない。

あるべきは、古田弁護士が指摘するように「被疑者ノートは絶対見ちゃダメ」という規範であろうが、まあ一里塚としては十分に評価できる判決であり、まずは、それを制度的に担保できるよう留置管理業務を改善する必要がある。
過去に本欄で紹介した、留置管理が支配管理するロッカーに被疑者ノートを預けさせられるような実態では、これに程遠い。私がとある事案で被疑者ノート(用の普通ノート)の検査に抗議文を送付したところ、その留置管理ではその後、被疑者ノートの検査を下に向けて振るだけになった、という報告を依頼者から受けたことがあるが、それとて到底、十分ではない。

次に英語禁止の違法性について、控訴審裁判所は、前記被疑者ノートの位置付けから、単なる備忘録とはわけが違うと断じ、英語禁止措置が「被疑者が取調べの内容や疑問点等を正確かつ効率的に被控訴人(古田弁護士)に伝達することが阻害され、被控訴人の接見交通権が侵害された」とした。
まさに、そのために差し入れている被疑者ノートなのであるから、実に常識的な判断である。

刑訴法に理解を示す裁判官は必要不可欠である。
更に行動を起こす弁護士も必要である。
被疑者ノートの検査は、まさしく日常茶飯事で行われているであろう。問題はなかなか立証手段がないことであるが(依頼者から検査事実を訴えられたとして、彼/彼女が証人として協力してくれるかは別論であるし、協力してくれるとして信用されるかも別論である)、今回のように痕跡を残す干渉を受けた弁護士は、積極的に行動を起こす責務があると思う。

(URL)
https://ftlaw.jp/communication/%e4%ba%8b%e4%be%8b%e5%a0%b1%e5%91%8a%ef%bc%9a%e5%a4%96%e5%9b%bd%e4%ba%ba%e8%a2%ab%e7%96%91%e8%80%85%e3%81%a8%e3%81%ae%e6%8e%a5%e8%a6%8b%e7%94%a8%e3%83%8e%e3%83%bc%e3%83%88%e5%9b%bd%e8%b3%a0%ef%bc%88/

(弁護士 金岡)