「「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」取りまとめ報告書」を読んだ。以下で公表されているものである。
https://www.moj.go.jp/content/001345215.pdf

刑事手続にIT技術の良いところを導入する、という総論は別に構わない。例えば刑訴法上、電話会議やウェブ会議の規定はないが、もう10年来、遠方の裁判所との打合せ期日に電話会議を活用したり、時には地元の弁護人が出頭してウェブ会議で繋ぐということも行ってきた。良いところを導入する分には構わない。
(なお、私自身は相当出頭を重視するので、電話会議やウェブ会議に好意的ではない。本当に進行上の、日程確認程度の些細な打合せあたりを除けば、出頭することには大いに意義があると思う。)

問題になるのは、特に被疑者被告人が取り残されていないかどうか、また、消去しやすい性質に照らして事後検証可能性をどう担保するか、更に、被疑者被告人の防御権が後退するようなことはないか、であろう。
刑事司法改革は、少なくとも捜査機関や裁判所が楽をするためのものではない。幾ら「その他の訴訟関係人」が利便を享受したいといっても、このような弊害があるのであれば許容出来ないからである。

この視点で、2~3、気付いた点を書いておきたい(検討会には、きちんとした刑事弁護人も参加されている。従って、全議事録を熟読すれば、以下のような懸念事項は議論されているのかも知れないが、少なくとも取りまとめ報告書からは何も伝わらなかったことを断りおく。)。

【書類の電子データ化、発受のオンライン化】
証拠開示をIT化しようという話である。
開示通知と共に所定のウェブページから開示証拠をダウンロード出来るようにする、というのは結構だが、被告人への開示に一切の言及がないのは驚きである。
弁護人がデータで入手したところで、刑事施設への差し入れが紙媒体になるなら(別の文脈ではあるが、被収容者への端末の貸し出し、占用には、消極な論調である)、事態は余り変わらない。
現行でも電子データの差し入れ問題は浮上しているのに、そこを無視した取りまとめには首をかしげざるを得ない。

【令状事務のIT化】
令状請求や発付をオンラインで行うという話である。
紙媒体を運ぶ分、時間の節約になることは相違ない。
他方、事後検証はどちらがまさるのだろうか。
現状、紙媒体の令状請求において、なにが疎明資料にされたか、確実に事後検証する術はない。IT化すれば、請求時の送信記録がきちんと保存されるのだろうか。保存されるなら、令状請求手続の事後検証は当該電磁的記録の開示によればよく、事後検証に於いてもまさることになろう。他方、そのあたりを手当てしないままにすると、「消しました」「消えました」で、今よりも悪くなりかねない。
少し話が広がるが、いつ、どういった捜査記録が収集作成され、いつ、どの範囲で裁判所に持ち込まれたか、といった、捜査過程が確実に記録化できるのは、IT化の本領であろうところ、逆に、仕組みとして確立させなければ、紙媒体より事後検証が困難になりやすいという性質もある。IT化というなら、そこまで踏み込むべきだろう。小手先の利便だけを追及するなら、却って状況は悪くなると思う。

【証人尋問の遠隔化】
制度の建付から、色々と議論が紹介されているが、思うに最も肝心なのは、証人尋問は審理の枢要部分であること、基本的に「一発勝負」であり、なにかしら不具合があったので途中から後日送りにします、などという遣り方は性質的に馴染まないと言うことである。露骨に言えば、ひとたび、遠隔での尋問になると、少々どうかなぁという音声や映像の状況であっても我慢しいしい強行されかねないことを懸念する。
対面でやれば、そういう支障は一切なく、万全の尋問が出来る。
手続に貴賤があるわけではないが、特に「争いがある事件」の反対尋問では、幾ら類型化したり何なりしたところで、対面での一発勝負以外を選択する余地はほぼないだろうと思う。直接主義口頭主義は、伊達ではなく、それだけのものをもっていると、実務を通じて実感している。その実感を持てる刑事弁護人が、安易に妥協せず、手続保障を実践する必要がある。

(弁護士 金岡)