これは公式用語ではなく、さる弁護士の命名によるものである。
検察官が、その請求証拠が不利に作用すると判断し、弁護人が同意意見を述べても裁判所が採用決定を行う前に撤回し、あまつさえ、弁護人が当該証拠を弁号証として請求しても不同意意見を述べる現象、これを「撤回」により、その公益的責務から「逃げ」たと嘲笑して生み出された言葉である。
例えば刑訴法300条は、321条1項2号後段書面について、検察官の取り調べ請求義務を課している。その趣旨は、真実発見及び被告人の保護を目的としていると説明され、解説書でも「実益は被告人に有利なものについてである」と書かれている。往時は証拠開示が未発達であったために、検察官の手元に、公判証言に反して被告人に有利な検面調書が眠っていると言うことも多かったのだろうが、そのような場合に、検察官は、信用性に欠ける公判証言を否定する真実を、被告人のために顕出しなければならない責務を負う。検察官の公益的性格をよく表した条文だと思う。
尤も、現実には、この条文はほぼ死文化していると思うし、なんなら同条に基づく証拠請求を求めても、検察官が検面調書の特信性を争ってくる始末なので(特に当初検号証であった検面調書について、一転して特信性を争い出すという事態を目にすると、本当に情けなくて暗澹たる気分になる。検察官という仕事は、特信性がないものを証拠請求して許されるほど軽いものなのだろう。)、もはや検察官の公益的性格など、おとぎ話ではあろう。
近時も、検察官が不同意にされた調書のわずか数行だけを伝聞例外で請求してきたので、それならその前数行も追加しろと同意意見を出すと「撤回」。
こちらから請求すると「不同意」。
よくもまあ、こういうことをするなあと、呆れてみているところである。
裁判所がどのように受け止めるのか、是非、知りたいものだ。
(弁護士 金岡)