和歌山地裁2023年1月27日判決(髙橋綾子裁判長)というものを入手して読んだ。丸の内拘置支所に未決勾留中の処遇に違憲違法があるという国賠であり、裁判所による争点整理は、単独室収容の違憲性違法性、閉居罰の違憲性違法性等々、多岐に及んでおり、違憲違法な処遇が防御権行使に影響を及ぼしたとも主張されている事案であるが、個人的に関心をそそられたのは「閉居罰中における着座姿勢の定め」の是非である。

まず、丸の内拘置支所の未決拘禁者遵守事項違反に対する懲罰規定として、動作制限がある。具体的には、午前7時40分~午前11時30分まで、昼食後は速やかに午後4時25分まで、各5分を除き「着座」である。
「着座」姿勢は「扉から2枚目の畳の縁に膝頭」「扉を向いて目線をやや下げ、正座又は安座」であり、用便は極力、休憩の5分の間に済ませることが求められ、原則離席は不可である。
要するに、午前午後合わせて概ね8時間30分の間に、昼食と5分休憩2回を除き、「着座」を強制するということである。

原告は、これを未決に適用することは許されない、また、長時間一定の姿勢で壁を見続けさせるという苛烈な方法は反省を強制するものだとして憲法19条、憲法13条違反を主張した(裁判所による争点整理)。
これに対し裁判所は、「謹慎を通じて反省を促す」目的に照らすと着座強制は不合理とは言えないとし、また、反省を強制するものではないとして、違憲性を否定した。

一見して、そんな馬鹿な、という(論争及び)結論である。
反省を強いることが思想良心の自由を侵害するか、という高邁な議論の遙か手前の議論として、一定の姿勢を強要するというのは、立派な体罰であり、虐待行為であり、拷問であろうに。
・・と思って、少し調べてみると、2020年2月に公表された厚生労働省「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」では「長時間正座をさせる」ことを体罰と明記している。また、2022年12月27日「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」でも「長時間にわたり特定の動きや姿勢を強要する」ことを、ネグレクト、及び身体的虐待、心理的虐待の全てに該当すると説明している。

子どもに体罰なら大人にだって体罰だと思うが、どちらの感覚がおかしいのだろうか。
更に厚労省に登場して頂くと、厚労省「管理職向け研修資料」に、「長時間正座させること」がパワーハラスメントに該当すると明記されているものもあった。

結局、丸の内拘置支所の行為は、体罰・虐待であり、ハラスメントなのである。

調べてみると、名古屋地判2004年8月26日が、同様の論点に対し、「拘置所が,受罰者に対し,上記内規の定める受罰姿勢に関して一切の例外を認めず,これに従わないことのみを理由に懲罰を科すなどして,これを厳格に強制すると,受罰者に対し,少なからぬ苦痛を与えることとなって,必ずしも相当とはいえない場合もあり得るものと解される。」とした上で「上記内規の定める受罰姿勢を厳格に強制していた事実はうかがわれない。」として救済している事例があった。ここからしても、20年前の時点で「相当灰色」という認識を表明せざるを得なかったのであったのだろう。
また、神奈川県弁護士会が公表している人権救済勧告においても、複数の単位会が直ちにかかる姿勢強要を廃止するよう勧告していることが記されている。

感覚的に考えて、「決まりを破ったから4時間正座を強要します」ということが許容されるとは思われない。和歌山地裁の判決は、ちょっとこう、争点の角度がずれた(のか、そうでなければ裁判所の人権感覚がずれている~着座強制が目的達成の手段として合理的だ等と宣っていることからすれば、その疑いは極めて濃厚である~)ように思われたところである。

(弁護士 金岡)