一行問題:第1回公判前に於いて、裁判所に採り得る争点整理上の手段を説明せよ
検察官の過失の主張が不特定だから防御方針が立てられないと主張し続けている事案がある。盛岡の一件に似ている。
盛岡の一件は、そう言い続けて8年、ついに現実的に採り得る結果回避手段が特定されないままに終わり、当然の如く無罪判決に至ったのであるが、勿論、柳の下の二匹目を期待しても始まらない。本件は本件で、しっかりと取り組む必要がある。
さて、刑訴規則178条の6は、第1回前に弁護人と検察官との間の争点の摺り合わせ等を予定しているが、本件では(お馴染みの手口と言うべきであるが)検察官が「証拠を読めば分かる」として打合せを拒否している。証拠を読めば分かるというなら、それを主張として特定することは容易なのだから、それをしようとしないということは、特定に苦慮していると言うほか無いのである。
では裁判所は、このような状況をどう捌くのか。防御対象が不特定で、証拠意見すら提出出来ない、刑訴法の原則たる連日的開廷など期待すべくもない現状に対し、どのような手を打てるのか。これが先の一行問題である。
裁判所の出した答えは、次の文書である(原文ママ)。
【従前からの弁護人と検察官とのやり取りの中で、検察官が証拠を読めば分かると頑なに述べている以上、裁判所としては現状、これ以上何もできないので第1回公判期日を開く以外に方法はないものと考えます。第1回期日の段階で、検察官の立証予定が明らかとなり、日程も決めることが可能となるはずです。】(裁判官鵜飼伸洋)
「これ以上何もできない」とは、驚かされる。
こんなに情けない文書は、なかなか記憶にない。
裁量的整理手続一つ取っても、事実誤認があると言わざるを得ない。
それ以外でも、事実誤認に充ち満ちている。
先の一行問題に、「検察官の善意に期待する以外には何もできない」と書けば、不合格請け合いと思う。
然るべく反論書面を提出したが、最後はこのように結んだ。
【贅言になるかも知れないが、敢えて裁判官に問いたい。本件が裁判員裁判であっても、第1回公判まで争点整理の関係で「何もできない」というのだろうか。そのような裁判官に遭遇すれば、裁判員も訴訟関係人も、大いに迷惑である。実際には、裁判員裁判ではそのようなことはない。それは、必要的整理手続により、予め争点整理や証拠整理を行うことが予定されているからである。そうであれば、何故、本件でそのようにしようと考えないのだろうか。裁量的整理手続決定により、上記のような大いに迷惑な事態を回避出来る見込みがあるというのに、「何もできない」等と開き直るのは止めて頂きたい。もし、本件の裁判を担当することが御自身の能力を超えるとお考えなら、潔く回避して頂きたい。】
6月1日追記:5月31日付けで整理手続請求を出したところ、6月1日になり、「2月20日」の求釈明への応釈明があった。裁判所と検察官とで、なにやら談合したのだろうなぁと思わずにはいられない展開である。判検交流とまでは言わないが、一方に伏せての遣り取りは疑いを招くだけである。
(弁護士 金岡)