赤嶺雄大弁護士より御紹介頂いた、証言予定内容開示にかかる裁定請求事件(即時抗告審、大阪高決2023年6月8日)である。
簡単に経過を追うと、次のようである。
X日 検察官が証人請求
X+1日 弁護人は異議(その理由の一つに証言予定未開示も含まれていた)
X+2日 検察官「甲の点は、証人決定後に聴取してから回答する」
X+6日 裁定請求
X+12日 請求棄却(原決定)
僅か6日の即断にも驚かされるが、原決定に驚くべき点はそこでは無い。
決定理由は、なんと、「甲の点は、現時点に於いては、証人の証言予定書面は存在しないと認められるから、請求には理由がない」というものであったという(高裁決定3頁)。なお、高裁決定によれば、原決定は「検察官は、証言予定書面を作成し次第、速やかに弁護人に開示すべきは当然である」と付記したとのことである。
これに対し、高裁決定は、「その開示が、合理的期間を超えて、「速やかに」なされていないときは・・その時点で予定証言要旨記載書面が存在しているか否かにかかわらず、被告人側は、予定証言要旨記載書面の開示命令を請求できるものと解するのが相当」と判断して、原決定を否定した上で、「6日や12日では」上記期間の徒過はないとして、請求自体は棄却した。
なお、高裁決定は、検察官が「証人決定後で無ければ証言予定を開示しない」かに見える回答をしていることについては、「証人請求後合理的期間内に開示することはしないという態度を確定的に示したものとまではうかがい難い」として、救済している。
この決定に、さほど先例的価値があるとは思われない。
証言予定内容記載書面が存在しないのであれば、「作って開示する義務」があるだけで、開示義務を免れるわけでは無いのは、余りに明らかなことである。原決定がおよそ理解しがたいと言うだけのことだからである。
敢えて本欄で取り上げたのは、証言予定内容開示制度が、ここまで無理解に扱われている、ということに警鐘を鳴らす反面教師として役立つと思われたからである。
証言予定内容開示がなければ証人請求に対して意見を言えない(言うべきではないし、ましてや言う義務は無い)のは当然である。それに対し、証人採用後に開示する、などという検察官は誠に度し難い。
また、原決定も、このような検察官の態度を結局の所、緩慢に放置している。高裁にしても、(係属審でない高裁に余り注文は出来ないが)合理的期間内であることを理由に棄却するよりは、合理的期間を示して検察官に対応を促すような審理をした上で結論を出しても良かったのではなかろうか(まあ、高裁からすれば、そういうのは係属審でやりなよ、ということかもしれないが)。
全体として、ぬるすぎると思われるのである。
証言予定内容開示制度は、主尋問の内容を具体的に知る制度的保障である。それなくして実効的な反対尋問は成り立ち得ない。逆に、証言予定内容開示制度制度が機能すれば、弁護人が即時反対尋問を行い、審理は迅速且つ充実したものとなる。反対尋問権の実効的な行使という手続保障の下に、五月雨式では無い迅速な集中審理を充実して行い、真相究明に資する裁判を、誰が歓迎しないだろうか。
裁判所は、上記のような検察官に対しては、厳然と、手続的な制裁(手続保障に協力しないのであれば真実を立証する権限を剥奪する~本欄で紹介している名古屋高裁が述べるように、証言予定内容開示義務違反の主尋問は訴訟指揮で制限することが、裁判所の義務である)を科して、教化していくべきである。弁護人は通常、条件さえ整えば即時の反対尋問を希望するだろうから、「不意打ちがある場合は準備期間を差し上げます」は通用しないと知るべきである。
(弁護士 金岡)