【1】
本欄本年7月4日、「またも捜査機関の証拠改ざん事例」の後追い記事である。
(記事 https://www.kanaoka-law.com/archives/1433

上記記事で紹介した判決にいわゆる「被告パトカーのドライブレコーダーの映像(乙4、11)」のメタデータの解析結果を紹介したい。
(判決 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/551/091551_hanrei.pdf

【2】
判決によれば、事故は2020年4月6日である。
これに対し、被告パトカーのドライブレコーダーの映像は、最初に提出された乙4(事故前10秒程度)が2021年7月作成、次に提出された乙11(事故前1分程度)が2021年9月作成のものであった(プロパティ情報)とのことである。

好意的な見方をすれば、48時間とか72時間とかのパトカーのドラレコデータのうち事件の部分だけを裁判中に切り出した、という見方も可能である。但し、長尺の乙11の方が、尺の短い乙4より後に作成されているので、「乙11から乙4を切り出した」のではなく、「乙11を裁判中にどこかから改めて切り出した」ということになるだろう。「どこかから」かといえば、「未編集動画データ」そのものであろう。
つまり、「未編集動画データ」は、裁判中に確かに存在していたから、愛知県側が正当性を訴えたいなら、これを提出することが容易だったとは言える。

また、バイナリデータの解析から、乙4にも乙11にも、普通、動画の切り出しに使用しないだろうエンコーダーソフト(名前は伏せる)が用いられていた、とのことである。
特殊なファイル形式のドラレコデータを、汎用性のあるデータ形式に変更するために当該ソフトを用いた可能性は、ゼロではないが相当に低く、怪しいことこの上ない。
裁判所がドラレコの型番の釈明を求めたことは、あるいは、当該ソフトによりドラレコの未編集動画データをエンコードする必要があるかを確認するためでもあったと推測される。また、結局は「未編集動画データ」を出すことなく主張を取り下げた愛知県側の応訴態度からも、「やらかしていた」のだろうと推測される。

【3】
次に、各ドラレコデータには音声データ格納領域があったとのことである。
勿論、愛知県側の当初主張のように「録音機能を使用していない」場合でも音声データ格納領域が生成される仕様であることは有り得るから、これだけで音声データが記録されていたはずだとは言えないが、やはりここでも、ドラレコの型番を特定させることで、「録音機能を使用していない」場合に音声データ格納領域が生成されるか検証は出来たので、裁判官の前記釈明の意図はそこら辺にもあったのだろう。

各ドラレコデータの音声データ格納領域が「極めて整っており」といえるか。
解析結果によれば、特徴的なデジタル信号らしきものが低頻度で書き込まれており(「DF 7D F7」の文字列の繰り返しや、「5D 75 D7」の文字列の繰り返しに対応)、素人目には見た目、奇妙に整って映るのであるが、技術的には、それだけで何かしらの改ざんを疑う根拠になるとはいえないとのことであった。
ただ、ドラレコの型番が分かれば、愛知県側が主張するように「録音機能を使用していない」場合に前記のようなデジタル信号が書き込まれる仕様なのかは容易に検証できる。やはりここでも、前記のような釈明の必然性があったのだろう。

【4】
まとめると、次のことが言える。

愛知県側は、普通、動画の切り出しに使用しないだろうエンコーダーソフトによる編集を施したドラレコデータを二度に亘り証拠提出した。他方、(乙11を切り出した大元の)「未編集動画データ」を提出できたはずなのに、これをしていない。

音声データ格納領域の生成機序や、特徴的なデジタル信号らしきものが低頻度で書き込まれていたことについては、何れも、ドラレコの型番を特定すれば解明可能である。
愛知県側は、そのような釈明に応じず、主張を取り下げた。

改ざんが発覚しないよう、敵前逃亡した可能性が極めて濃厚というのが、私の評価である。裁判官の解析上の着眼点は推測の限りでしかないが、「録音機能を使用していない場合」のものとしては音声データ格納領域のバイナリデータに違和感があり、実機で検証しない限り何かしらの作為が加わったと見ざるを得ないと考えた、或いは前記普通では使用しないエンコーダーに感付いた、というあたりであろうか。

(弁護士 金岡)