現在、あちらこちらの単位会等からオンライン接見の制度化を求める会長声明等が出されている。支部の事件や隣県の事件なら接見に片道1時間30分~2時間を要することは珍しくないが、地域によっては、日常的に受任する地元の事件が、事と次第では片道2時間以上を要したりするわけだから、その必要性は切実にして高度なものがあることは良く分かる。
例えば京都弁護士会の本年7月の会長声明(たまたま鞄の隅っこに読み残しの状態で置かれていただけなので、これを取り上げることに特別な意味はない)では、(1)初回接見の重要性から説き起こして、当番弁護士でも賄いきれない防御権保障の充実の観点、(2)裁判員裁判や重大事件が本庁移送された場合の地元の受任弁護士による継続的な弁護体制確立の観点、を挙げて必要性を論じた上で、(3)コスト負担は必要なものである以上は反対理由にならないし、オンライン取り調べやオンライン弁録を検討しているならオンライン接見だけ検討しない理由は益々ないこと、(4)なりすまし接見は現行のアクセスポイント方式によって何ら弊害が生じていないこと、を挙げて反対論に理由がないことを指摘している。他の大方の単位会の会長声明も似たような構成であり、一つ一つの議論に特に異論はない。
個人的にオンライン接見に気乗りがしない理由は、2つある。
第一に、被疑者・被告人側の接見室の構造がどのようになるのか(どのように設計、運用されるべきなのか)分からないことである。「リアル接見」を考えると、刑事施設職員が被疑者・被告人を入室させ、出て行く。ちらちら、のぞき窓から観察したりしなかったり、といったところである。それに準えると、刑事施設所定のオンライン接見室で機材の準備を万端にして、そこに被疑者・被告人が入室し、職員は退室する、となろう。
しかし刑事施設側が言いそうなこととしては、被疑者・被告人が機材を壊したり、機材を用いて自傷行為に及んだりするかもしれないから、より手厚く監視する必要がある、というような理屈が有り得る。もし「手厚く監視」されるなら、秘密交通権を揺るがせる危険があるので、賛成しづらくなる。弁護人が現地にいれば、秘密交通権の観点から容認できない監視行為に対しては即座に抗議できる(のぞき窓にしても対策は可能だ)が、オンライン接見だと果たして抗議が上手くいくか、そもそもカメラの位置次第では監視行為に気付き得ないかもしれない。
つまり、リアル接見に比べると刑事施設側の介入が相対的に過剰になりやすいと思われるオンライン接見の議論は、あるべき被疑者・被告人側の接見室の構造と一体でなければ、秘密交通権の観点から望ましくない可能性を排斥できないので、どうにも気乗りがしなくなるということである。
なお、見つけた中では唯一、大阪弁護士会の会長声明だけが、「その秘密性が保障されなければならないのは当然」と、わずか1行ではあるがこの問題に立ち入っていた。
第二に、弁護士の接見はただでさえ、聞きたいことを手際よく聴取するが、被疑者・被告人の話したいことをじっくり聞くことには不熱心である傾向があろう(勿論、人によるので、そうではないこともあるだろうが)。オンライン接見となると尚更、そのような傾向が強まることを憂慮する。
リアル接見なら、帰り際の弁護士を呼び止めて「あとこれも」ということも起きうるが、オンライン接見だとアプリが閉じられて打ち切り・・の傾向が強まるのではないか。
尤もこれは、結局のところ弁護技術の巧拙の問題に帰着するので、さほど強い消極理由というわけでもないが。
結局、オンライン接見に高度の必要性があることは分かる。
分かるが秘密交通権が揺らぐようなものではダメである。
従って、被疑者・被告人側の接見室の構造論と一体の議論を展開して欲しい。
あと、付け加えるなら、オンライン接見により接見の負担を軽減できるとすれば、被疑者・被告人側からの接見要請を、より気兼ねなく行って貰える、ということでもあろう。従って、被疑者・被告人側からの接見要請を容易に行えるようにも、一括した議論を行うことが必要だろう。
【8月17日追記】岐阜県弁護士会の会長声明でも、1行ばかり秘密交通権に言及されたとの情報を頂いたので、ここに記す。
(弁護士 金岡)