勾留準抗告棄却決定である(名古屋地裁2023年9月15日決定、平城文啓裁判長ほか)。弁護人の主張は、主として、通常逮捕前に違法な実質逮捕が行われたことに依拠するものであった。

裁判所は、「被疑者は、追跡中の不審車両付近にいたところを捜査員に発見され、複数名の捜査員に腕や肩を捕まれるなどしてパトカーの後部座席に押し込まれたこと」を認定した上で、その後に被疑者が任意同行を拒み、最終的に救急搬送された経過、その約6時間後に通常逮捕令状が発付された経過などを認定した上で、次のように説示した。

「以上の経過、すなわち、パトカーに押し込まれる行為があった後に、具体的な嫌疑が浮上しているほか、被疑者が捜査機関の下から一旦逃れて所在不明になっていると認められること、そして、本件勾留請求までの時間的な経過に照らすと、本件勾留の前提となっている通常逮捕が不当な逮捕の蒸し返しであると評価することまではできない」

ぱっと読んで、違和感を感じるのではないだろうか。
「パトカーに押し込まれる行為があった後に、具体的な嫌疑が浮上している」・・ということは、パトカーに押し込まれた時には具体的な嫌疑がなかったということになるが、そうするとパトカーに押し込んだ行為は一体なんなんだろう?嫌疑がないのにパトカーに押し込むか??それとも???

無令状の実質逮捕を、具体的な嫌疑もなく行うような捜査官がいたとして、同人が「その後に嫌疑が浮上したので再逮捕しました」と説明したとして、ほいほいとこれを追認する裁判所は、思考停止の極であり、平たく言えば愚物である。
或いは、裁判所は、「無令状の実質逮捕の後に嫌疑が浮上したことにすれば、その後の実質再逮捕を正当化できる(そうしないと、同じ嫌疑に基づく蒸し返しと認めざるを得なくなる)」と考えて、悪知恵を巡らせ、パトカーに押し込まれた時には具体的な嫌疑はないと無理矢理、こじつけたのかもしれない。その場合、思考停止ではなく悪知恵程度は働かせられると言うことになるが、勿論、愚物以下である。

どっちにしたってどうしようもない決定である。
とにかく、パトカーに押し込まれた後になって具体的な嫌疑が浮上した「のだから」適法だ、という説示を真顔でする裁判所を目にしては、乾いた笑いしか出なかった。警察官は、「当て勘」で逮捕し、逮捕に伴う無令状捜索を行い、覚醒剤を発見したら「具体的な嫌疑が浮上した」として再逮捕する、そういう世界が開かれたわけである。

(弁護士 金岡)