先日は保釈決定に対して検察官に準抗告され(2~3時間で棄却)、今度は勾留却下決定に対して検察官に準抗告される(棄却)。手を抜かず丁寧に対応すると、それは疲れる。それでも不当に勾留されることは回避しなければならないから、限界まで急ぐべく走り回る。
では裁判所は、限界まで急いでくれているのだろうか?

18時49分、勾留却下決定の連絡を受ける。
依頼者の家族に迎えを指示する。
まさか準抗告は無いだろうと思っていたら(後述)、19時37分、準抗告の連絡を受ける。
裁判所は早々と翌日送りを決め込む。
即日やれない理由を説明しろと食い下がると「これから記録を読むので責任ある判断のためには明日になる」とのこと。
翌11時48分、準抗告棄却の報に接した。

以上が経過である。
前日の退庁時刻は知らないが、例えば22時まで記録を読んだとする。翌9時に登庁して11時48分に棄却決定が完成すると言うことは正味2時間48分(その部の部長の整理手続が午前にあったので、本当のところ2時間も無いだろうが・・)。
なんのことはない、日付が変わるくらいまでやれば、即日決定ができたはずだ。

そもそも、勾留請求却下時点で、逮捕の効力は失効したと解すべきなのであり、勾留却下決定の執行停止というものが存在するという理屈がおかしいと思う。保釈の執行停止なら分かるが、勾留却下の執行停止は、それを止めたところで勾留されているわけではなく、かつ逮捕は失効しているのだから、論の余地無く釈放するべきなのだ。
勝手に身体拘束を正当化する慣行を作り上げた上に、翌日まで裁判を放置し、釈放を12時間も遅らせることは無責任であろう。往時は、23時、24時までかかっても審理するという気概の裁判官もいた。保釈が執行された頃には終電がなくなっていたという経験も一再ならずしている。
勿論、裁判官に過労死せよというわけではない(良い裁判のためには良い精神衛生状態が必要である。何かの文献で、裁判官の空腹度が判決に影響を及ぼすという研究報告があったくらいだ。)。しかし、被疑者被告人の犠牲の下にそれを実現するのは間違いである。人的体制が整わず過労状態の身柄裁判を強いられる文句は裁判所組織に言うべきであって、被疑者被告人の犠牲に転嫁することは許容できない。

ところで、この事案は混雑する電車内での痴漢事件であり、依頼者に前科前歴はなく、仕事も家族も安定していた。
類型的に在宅案件だと思うのに、警察は釈放を拒否し、検察官は勾留を請求し、剰え準抗告までしてくると言う体たらくである。

一体どういう景色が見えているのだろう・・と、準抗告棄却決定を見ると、「(なお、上記の事情に照らすと、被疑者が被害者の住所や勤務先等を熟知している可能性がある旨の検察官の主張は、捜査の初期段階であることを勘案しても具体性を欠くと言わざるを得ない)」という一文が挿入されていた。
根拠も出せないのに、被疑者が被害者の住所や勤務先等を熟知している可能性があると主張して準抗告を申し立てていたのか・・と驚愕した。

紙幅の都合で書き切れないが、勾留裁判の手続保障の在り方も考え直さなければならないだろう。意味不明な主張がされ、不当に勾留され、不起訴となり、記録が闇に葬られると、国賠すら検討できない。
捜査の秘密があるから閲覧権を保障できないという理屈を立てても、終局処分後、不当な捜査による不当な身柄拘束があったかどうかを精査するために記録閲覧権を保障することには何の問題点もないだろう。
不起訴でお茶を濁せば何をしても露見しない、そういう甘えが検察官にあるのでは無いかと思わされる、異常な主張に映った。

(弁護士 金岡)