刑弁「あるある」ネタではあるが、やはり取り上げておこう。
犯罪捜査規範を知らなくとも捜査はできる、という話である。

採尿当時、薬物捜査に従事すること6年強の警察官、内木英智警察官(愛知県警所属)。
彼に言わせると、「先輩らから、必要量以上の尿は捨てると教わっていた」そうである。
他方、犯罪捜査規範186条は「鑑識に当たつては、なるべくその全部を用いることなく一部をもつて行い、残部は保存しておく等再鑑識のための考慮を払わなければならない。」と規定している。
必要量以上は捨てることは、「残部は保存しておく」「再鑑識のための考慮」とは真逆であり、当然、職務規範違反が問題となる。

犯罪捜査規範違反を指摘される警察官は、決まって、「犯罪捜査規範を知らなかった」と証言するものである。
内木警察官も、その例に漏れず、採尿当時、186条のような規定を知らなかったと証言した。まあ、「犯罪捜査規範を知っていました」と言おうものなら、故意の職務規範違反に陥るわけだから、嘘でも「知りませんでした」と証言するしか無いのだろう。

かくして、(偽証でなければ)薬物捜査に6年以上従事していても、再鑑定のために鑑定資料の残部を保存しておくという職務規範を知らない警察官のできあがり、という訳である。犯罪捜査規範1条は、「警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え、捜査の方法」を規定したものとする。それを知らずに捜査ができるというのだから、随分と捜査は簡単なものなのだ。

・・平気で偽証をする警察官と、犯罪捜査規範を知らないまま仕事をする警察官、どちらがましなのだろうか?どちらも選びたくないものである。

(弁護士 金岡)