取調室にノートを持ち込み、メモを取ることを禁じられるか?という問題については、本欄で過去に数度、取り上げたことがある。後述の通り、現在の刑事弁護実践においては一段、重要度が落ちるかも知れないが(立場による)、検討して損はない論点である。

過去記事でいえば、2022年8月29日付け本欄では、兵庫県警の対応要領に「いわゆる被疑者ノートの持ち込みなどに応じる必要はありません」とされていることを紹介した。また、2018年12月12日付け本欄では、名古屋地検の田中副検事とやらが「検察庁は、在宅被疑者が取調室にノートを持ち込み、メモを取ることは一切認めていない」「法的根拠以前の問題である」と放言し、検事正に質問状を送るも無視されていることを報告した。

さて、幾つかのML等を賑わしているのが、件名の2024年3月13日の法務委員会における政府答弁である。

米山議員:メモをしてはいけないと、まあ要請はいいですよ。要請してもそれを断っている人に対して、そこから強制的にメモをやめさせる根拠をおっしゃってください。
小泉法相:刑事訴訟法の第一条に、刑事手続きの目的の1つとして事案の真相を明らかにすることを規定しております。これが権限のもとです。
(中略)
米山議員:法令上なにも禁止されていないんですから、それは私はもうひたすらメモしますよと言ったら、それは禁じられないということでいいですね。
小泉法相:はい、それはご本人の意思を通されるということであれば、強制的には止められません。

とまあこのように、法務大臣とは思えない頓珍漢な答弁(前半部分~刑訴法1条がメモを禁じる根拠になるというのは意味が分からない)が修正され、取調室においてメモを取ることを禁止は出来ないということが明確にされたわけである。
メモを取ることが禁止できないなら、ノートを持ち込むことも・・禁止は出来まい。在宅限定の解釈とは思われないので、留置場からノートを持ち込みたい、という被疑者の要望を禁止することも出来ない、ということで決着を見たと理解して良いのだろう。

もっとも、昨今の取調べ対応として、最も重要なのは「包括的黙秘を解禁する理由があるか」である。そして、包括的黙秘権を解禁する理由というのは、通常ない。包括的黙秘権を行使しているなら、ノートを持ち込むことに拘る理由もないような気はする。
勿論、事案ごと、依頼者の個性ごとに都度、判断するのだが、最近では、ノートを持ち込むことに拘る意味合いは薄れているように思われるところである。

(弁護士 金岡)