刑訴法47条本文により公開が禁止されている刑事記録を、公開の法廷である民事裁判の書証に利用することが出来るか?という問題である。
以前、東京地裁で「弁護人の資格で刑事事件の係属審裁判所から謄写した書証」を民事訴訟に提出することが、謄写目的外使用だとして控えるよう言われたことがある。検察官から開示を受けたものであれば目的外使用規制が明文にあるが、係属審裁判所から謄写した書証はそのような規制もなく、そもそも公開の法廷で取調べ済みなので納得感は無かったが、別に抵抗するところでも無かったので、わざわざ確定記録から再度、謄写して提出した。
かたや、名古屋地裁の、某都道府県警を相手取った国賠案件では、おそらく公開の法廷で取り調べられてもいないだろう、録にマスキングされていない員面調書が、被告側から提出されてきたので、刑訴法47条違反ではないかと指摘したが、裁判長はピンとこない御様子で、刑訴法47条違反が直ちに民訴法上の証拠能力の議論に結びつくことはないのではないかという趣旨の発言をされていた。
刑訴法47条は、訴訟に関する書類が公判開廷前に公開されることによつて、訴訟関係人の名誉を毀損し公序良俗を害しまたは裁判に対する不当な影響を引き起すことを防止する趣旨であり(最三小1953年7月28日判決)、逐条解説では国政調査権などが例に挙げられる程である。
県警が、国賠訴訟で防御するために、刑訴法47条違反の疑いのある員面の証拠請求を軽々に行うというのは、どうにも危ういものを覚える。悪いことにこの員面は、国賠訴訟とは全く無関係の第三者の供述調書で、内容的にも「暴力団組織内部の連絡系統を捜査機関に説明する」内容である。そんなものを民事訴訟に提出して公開の法廷で取り調べると、供述人にどのような迷惑が及ぶか、恐ろしいものがあるのだが、県警や裁判所は意に介さないのだろうか。少なくとも、勾留理由開示における捜査の密行性だの、暴力団事犯における罪証隠滅とは真逆の事態が展開している。
攻守を代えて、捜査記録の文書提出命令や送付嘱託を行うと、抽象的な屁理屈でもって提出を拒否してくるのが、警察組織の常套手段である。
ところが国賠の被告になると、上記の通り、危うい内容の調書でも平気で出してくる。
自分に甘く、身勝手な権力機関は、全く信用に値しない。
(弁護士 金岡)