本欄本年5月11日、5月26日、6月27日と、ばらばらと話題を提供してくれた某事件は、遂に、3度の勾留延長準抗告(A罪)、第1回公判前に3度の保釈請求(起訴されたのはA罪ではなくB罪)も虚しく、身体拘束のまま第1回公判を迎え(腰縄手錠SBMは何れも相手にされず)、即日結審し、ただちに保釈が許可され、検察官抗告もなく釈放された。そんなに第1回公判という儀式が重要なのか?同じ日に(第2次保釈請求却下に関する)特別抗告審の棄却決定が届いたんだけどそれで良いのか?という気持ちである。
特に2度目の保釈請求、3度目の保釈請求を中心に、「なんでこうなった」という出来事の連続で甚だ心外な思いをしたが、後学のため、かいつまんで紹介しておこうと思う。
【1】 配点の偏り
1度目の保釈請求が関和裁判官に配点された。
有り難くも電話を頂戴し(私は近時は、裁判官面談をこちらから求めることはしない方向性に転じている)、「今は出す気は無い」「基本的に受訴裁判所が判断すべきこと」と宣われた時点で厭な空気しか漂わなかったのだが、それはまあ置いておく。
2度目の保釈請求も関和裁判官に配点された。
これに忌避を申し立てた顛末は、本欄6月27日で取り上げたとおり、3週間にわたり保釈の判断が受けられなくなるという悲惨な事態を招いたのであるが、なんと3度目の保釈請求も関和裁判官に配点された。
つまるところ名古屋地裁は、可能な限り白紙の心証の裁判体に配点するのではなく、既に記録を読み込んで先入観を持っている裁判体に配点する仕組みということが分かる。
このことは、何れ国賠訴訟を提起しなければならないだろうと考えている。
【2】 保釈事件における忌避の手続停止効
2度目の保釈請求において忌避を申し立てたところ、忌避事件が確定するまで保釈の審理判断はできないとして、3週間にわたり保釈の判断が受けられなくなるという悲惨な事態を招いたが、話はこれで終わらない。
後述の通り、忌避事件が確定した時点で、検察官請求証拠が開示されていたことから、証拠意見を出すまで保釈の判断を留保するよう、関和裁判官に求めたところ、「証拠意見を出しても判断は変わらないので待たずに判断する」という、驚くべき御託宣を頂いたので、やむなく、第2次忌避申立に及んだ。
同忌避申立に対する準抗告審は、手続停止効について、東京高決1982年7月27日「忌避の申立があったことにより訴訟手続を停止すべきものとされているのは、これを進行した後に忌避の申立が認容されることにより生じうる訴訟進行上の障害を防止するためであると解されるから、右の訴訟手続とは、そのような障害が予想される訴訟手続すなわち本案についての訴訟手続を指し、勾留についての手続はこれを含まないと解するのが相当である。」を援用して、手続停止効はないと判断した。
・・じゃあ1度目の忌避で、3週間も放置されたのはなんだったのか。
手続停止効がないとしても、忌避申立を尊重して、判断待ちという姿勢をお取り頂いたと善意に解釈しなければならないのだろうか・・大概の場合、頼みもしないのに簡易却下でどんどん手続を進めるくせに、保釈手続は忌避の判断待ちで3週間放置する。全てのツケを被告人に押しつける、随分な仕打ちだと思う。
【3】 忌避申立と内部的成立の先後関係
ところで、二度目の保釈請求における、二度目の忌避申立は、前記の通り、「証拠意見を出しても判断は変わらないので待たずに判断する」という、異常な裁判官により判断が強行されそうになったため、取り急ぎ申し立てたものであるが、ファクスによる申立が14時42分である(忌避申立は口頭でも可能だから、当然、ファクスでも可能である)。
この点、裁判所は、「14時20分から14時40分の間に、保釈却下決定が内部的に成立していたから、2分遅れの忌避申立は不適法」という扱いをしてきた。
先例として、裁判官ABCに対する忌避申立に対し、裁判官DEFからなる合議体が忌避却下決定書作成(内部的成立)後、同決定が被告人に送達される前に、被告人からDEFに対しても忌避申立がされた事案で、内部的成立後の忌避申立は、忌避却下決定を行ったDEFが「忌避された裁判官」には該当しないとした最決1958年12月15日があるが、その調査官解説でも、内部的成立時期は必ずしも明確にならない場合があり、その場合は決定日付をもって内部的成立時期とする趣旨の解説が加えられているが、今回の場合、「わずか2分」の差で不適法扱いになるかならないか、という極限的な事態であって、裁判を受ける権利保障の扱いとして相当とは思われない。
しかも、14時30分頃には、(またもや関和裁判官から頂いた御電話で)前記の通り、判断を強行する・しないという論争になっていたから、決定の内部的成立が「14時20分ころ」の筈はない、実に杜撰な話である。
かくして、忌避申立を不適法却下した地裁決定に対し、名古屋高裁に即時抗告を申し立てたところ、これは名古屋高裁刑事2部に係属したが、例の如く全く理由をいわない決定であった。
論点は前記の通り、(1)内部的成立説の当否、(2)本当に14時42分には内部的成立していたかという事実認定の問題を掲げたが、高裁決定の理由は、全文、次の如くである。「申立人は、裁判官が決定書を作成して決定を成立させた後も、決定の告知までは申立の利益があると解する必要がある、などというが、そのような解釈は採用できない。また、申立人は、本件忌避申立ての却下決定の成立が、間違いなく本件忌避申立ての前であったと認めた原決定には、重要な前提事実に誤認がある、などともいうが、原決定に申立人が主張するような事実の誤認はない。申立人の主張には理由がない。」(田邊三保子裁判長、山田順子裁判官、海瀬弘章裁判官)。
はあそうですか、(外れ籤ばかり引かされたこちらが)残念ですね、としか言い様がない。理由を書かずに蹴飛ばすだけの裁判で良いなら、そこら辺の中学生でもできるだろう。裁判官は楽な仕事だなぁと思う。
(2/2・完に続く)
(弁護士 金岡)