事のあらましはこうである。
依頼者は、虚偽債権を担保にして融資金を詐取したとして逮捕勾留され、その後、当該虚偽債権について融資主への債権譲渡担保の登記を経たということで電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪で逮捕勾留された。
その後、詐欺罪で起訴されたが、電磁的~の方は不起訴。
そして、詐欺罪について、無罪が確定した。その理由としては、要するに、虚偽債権を担保としたことは他の社員の独断の可能性がある(被告人は関与していない合理的疑いがある)というものである。この判決は確定している。
依頼者は、詐欺罪について刑事補償・費用補償を請求すると同時に、不起訴にされた事件について、被疑者補償を請求した。
これは、お分かりのように、本欄2023年11月9日~で紹介している事案である。
そして本日、名古屋地検から、電磁的~事件について、被疑者補償を行わない、という通知が届いた。
なんという機能不全だろうか。
虚偽債権を担保としたことに依頼者が関与していない合理的疑いがあるということは、仮に電磁的~事件で起訴して「くれて」いれば、そちらも無罪になる、ということである。その場合、つまり無罪判決があれば間違いなく身体拘束期間に対応した補償を受けられるのに、起訴されなかったばかりに補償が受けられないという逆転現象。
というより、詐欺罪の無罪に対し控訴できなかった検察庁が、電磁的~事件の方で被疑者補償を拒むというのは、見苦しい意趣返しというべき代物で、国家権力の濫用もいいところではないかと思う。
被疑者補償の拒否裁定に対しては訴訟は出来ないという先例があるが、国家賠償という要件が加重される手段に依らずとも補償を受ける地位が、上記のように逆転してしまって良いはずはない。
試金石として、然るべき法的手段を講じたいと思う。
(弁護士 金岡)