弁護士層には言うまでもないが、弁護士会が主催共催する刑事系の大規模な勉強の場としては、国選弁護シンポがあり、経験交流集会があり、各種弁連大会があり、はたまた人権擁護大会シンポ等がある。
駆け出しのころはそれこそ南船北馬で各地の勉強会を渡り歩いたものであるが(そこで面識が出来た方々から色々と事件や会務の勧誘をされたりするのも良い武者修行であり芸の肥やし作りだったのだが、ズーム全盛の今では昔話の一つに過ぎないのかもしれない)、徐々に「大体知っているし」という感覚で足が向かなくなっていた。

標記の人権擁護大会シンポは、名古屋市内で開催され、「愛知刑事弁護塾」からも何名か実働していることもあって久々に参加したが、やはり多数の弁護士が時間を費やして研究した成果が凝縮しただけあって、なかなか聞き応えがあった。
詳細は450頁もの膨大な基調報告書を入手して頂ければ良いと思うが、法学者の視点、海外の実情報告、裁判官経験者を含む座談会と盛り沢山であり、やはり「人権問題」であると多角的に討論され、「手錠・腰縄問題」を座視する弁護人は、裁判所による人権侵害を追認するものに他ならないと気焔をあげて締めくくられた感じである。

個人的な目当ては、海外の実情報告と、それを支える思想、国際人権規約を改めて学び直すことであった。
そしてふと思ったのは、裁判所はこの問題を研究しているのか?ということである。毎年、様々な裁判官が様々な国に留学し、様々な研究を持ち帰ってくると承知しているが、果たして、諸外国における「手錠・腰縄問題」の調査研究指示はでているのだろうか。
もし裁判所が「まだ」というなら、今回の人権擁護大会シンポの資料は格好の素材になると思われる。弁護士会が、本基調報告書を全裁判所に寄贈しても良いのではなかろうか。

ついでに。
この分科会参加者は会場300のズーム200といったところだったらしい。
この500名が、仮に非対象事件の「身柄」事件を年2件、受け持つとしたならば、向こう1年でのべ1000件の「手錠・腰縄」申し入れが発生する。刑事裁判官は1000名もいないだろうから、計算上、全裁判官が1度ずつ遭遇することになる。それだけやれば何か変わるかもしれないし、動かなければ何も変わらない。

(弁護士 金岡)