保釈10日放置(未遂)騒動がなければ書きたいと思っていた、検察による証拠開示作業の「体たらく」に思うことを書いていく。

【1】
1つめの事件は、昨年5月に受任した(その時点では大半の尋問が終わっていた)複数の公訴事実から成る経済事犯である。
前任弁護人が全く証拠開示をやっていなかった(驚きの一言に尽きる)ので、受任後2か月で260点ばかりの証拠開示請求を起案し、7月には提出し終えた。
しかし検察の証拠開示作業は遅々として進まず、開示請求から半年が経過した本年1月現在、「ぱっと見て開示して差し支えないものは開示し終えた」「これから要検討の開示作業に着手するが、あと2か月必要」という「体たらく」である。
証拠開示作業だけで8か月も待たせるのか?という話である。

2つめの事件は、判決間近に受任した、経済事犯とまでは言えないが役所が絡んでいるため無闇と関係資料が嵩ましされていそうな事案である。
こちらも前任弁護人は全く証拠開示をやっていない(1つめの事件と異なり、被告人が一旦認めに転じていたという経過はあるのだが、認め事件だろうと証拠開示請求を行わないのはどうかと思うし、少なくとも当初は否認していたのだから、念のためにも証拠開示請求に手を抜ける案件では無いと思うのだが、まあそれはさておく)ので、早急に証拠開示請求に着手したが、判決が時期尚早であることを説得的に示す必要上、まずは要点に絞って僅か50点弱の証拠開示請求であった(昨年11月に出し終えた)。
申し合わせでは12月中に開示対応となっていたが、検察官が想像以上に量が多いと音を上げて、結局、3月まで待たされるという状況である。

検察庁の実情は分からないが、1つめの事件は260点ばかりに8か月もかかり、2つめの事件も50点弱に対し4か月もかかるという。
どちらも集中して取り組めば数日の作業ではないだろうか?と思う。

【2】
勿論、本稿は、ただ単に「遅い」と言いたいために紹介しているわけではない。

1つめの事件のA検察官曰く、「自分が記録に目を通して開示に問題ないと思うものは取り敢えず引き抜いて開示に回している」趣旨の作業だという。
2つめの事件のB検察官は、「事務官が記録から開示して問題なさそうなものを選り出して作業している」という言い方であった。

打合せ期日における雑ぱくな物言いであり、余り言葉尻を捉えるものでもないとは思うが、このような物言いを聞くと、「開示しなければならないものを見落としなく拾い出せているか」は非常に不安である。
なにせ、2つめの方は事務官が第一次選考をしているという(検察官が、第1次選考を通過しなかった方の記録を読み直すとは思えない)。事務官の能力を侮るわけではないが、その事件において義務的に(整理手続ではないから類型開示義務に準じて、程度の意味)開示しなければならないものを完璧に正しく把握出来るほどの立場ではないだろう。
1つめの方も、「開示に問題ない」かどうかではなく、証明力判断の上で開示しなければならないものを拾い出す必要があるはずで(この検察官が全面開示論者で、弊害がなければ全部開示するという立場なら別だが)、問題なさそうなものを引き抜いてます、と言われると、「反証に役立ちそうなものは隠してます」と聞こえてしまう。

【3】
そもそも論において、現在の証拠開示制度は、整理手続であれ、非整理手続であれ、基本的に検察官の性善説を前提としている。
かろうじて、整理手続における裁定事件で、存否が鋭く争われて裁判所が事実審理を行い、その結果、「ない」と主張されているものが「ある」と判断される形で不正が糺される場合があるが、それを除けば、偶然的に不正が発覚する例外的場合を除き、検察官の開示作業の正しさを検証する術がない。

捜査機関が受け入れた証拠を一から百まで把握する仕組みすらなく(送致目録や、検察庁の保管証拠目録に記載されない、証拠が存在することは、最早、常識である)、捜査機関が受け入れたと公に認める一覧から、適切に開示作業が行われているかどうかを検証出来る仕組みもない。

はっきりいえば、これは悲惨な事態だと言わなければならない。

(2/2・完に続く)

(弁護士 金岡)