【1】
前回記事では、検察官の証拠開示対応が遅い上に、開示しても問題なさそうなものだけを(場合により検察官ですらない者が第一次選考を行い)開示しているのではないかという危惧があり、相当に悲惨だということを説明した。

【2】
前回記事において、たかだか260点ばかりの証拠開示請求に「8か月待ち」という対応を受けていることを取り上げたわけだが(これは名古屋地検の事案)、東京地検でも、7月に類型証拠開示請求を出し終えた後(こちらもたかだか260点弱である)、検察官の証拠開示作業で年末まで待たされ、しかも、その回答が極めて杜撰な事案がある。

この事案の検察官の回答は、次のようなものである。

※検察官による証拠開示の判断の概要は以下のとおり。
(中略)
3.証拠物
(1)Aからの押収物は、個人の携帯電話のうち開示の要件を具備しないものを除き、全て開示済み。
(2)Bからの押収物については、全て開示済み
(3)Cからの押収物は、開示の要件を具備するものは全て開示済み
(4)Dからの押収物については、開示の要件を具備するものは全て開示済み
(5)それ以外の者からの押収物については、存否に関わらず開示の要件を具備しないので不開示
4.捜査報告書、捜査関係事項照会回答については、3の例による

【3】
上記のような東京地検の回答が、悪い冗談にしか思えない醜悪な代物であることは、刑訴法の初心者でも理解出来るだろうと思う。

(3)「開示の要件を具備するものは全て開示済み」ということは、「開示の要件を具備しないものは開示しない」ということだろうが、開示の要件を具備しているなら開示しなければならないのだから、「開示の要件を具備しない」というだけで不開示理由の告知になるはずはないし、そもそも「何を」不開示にしたのかが特定されていない(前註で、「証拠開示の判断の概要」と断られているとおり、包括的な回答でしかない)。

(5)に至っては、A~D以外からのあらゆる押収物が、「存否に関わらず開示の要件を具備しない」という、まともに検討したのか?と思わせる包括ぶりである。

更に4項は、「捜査報告書」という捜査官作成文書の開示指針とやらを、3項の証拠物と同じだと放言しているが、被押収者単位の3項に4項を準えるのはそもそも無理があるだろう。意味を理解することすら出来ない。

当然、弁護人からは、こんなものは回答とは言えない、まずは開示請求された証拠毎に回答しろと要求せざるを得ず(実のところ8月~12月の間に2度3度と念押ししていた)、その作業に更に一月を費やす、ということで期日はものの見事に空転した。

検察官曰く、「この事件だけ特別対応は出来ない」というのであるが、そうなると東京の弁護人は皆、このような悪い冗談としか思えない類型証拠開示請求に対する回答を唯々諾々と受け入れているのだろうか?

【4】
裁判所は屡々、整理手続の遅延は弁護人が予定主張を出すのが遅いからだと言うが、現場で日々、証拠開示に明け暮れている立場からは、それは間違いだと断言出来る。
事案によっては、ほんの机仕事で開示請求対象が100や200になることもままあるところ、検察官がそれに対し数ヶ月も手続を止めることが頻発することが、整理手続を遅らせているのである。統計を作成するのは難しいかもしれないが、類型証拠開示請求が一通り尽きるまでの検察官の作業時間を算定すれば、どちらに問題があるのか、もう少し見えてくるのでは無いかと思う。
弁護人は、何十名もの捜査官が何十日もよってたかって積み上げた捜査の結果及び過程の開示を受け、それを、多くても数名までの体制で検証する作業をする。彼我の人的体制や調査権限を勘案すれば、積み上げられた捜査期間の何倍もの期間を要求して、不合理ではない。その検討期間に入るまでに数ヶ月以上、とめられ、悪い冗談としか思えない出来損ないの回答を是正させるのに労力を使わされていては、整理手続が序盤で膠着するのは寧ろ当然のことである。

諸悪の根源は、やはり全面証拠開示でない、というところも、言い古されてはいるが、指摘しなければならないだろう。
何をどれだけ開示させたのか(開示されていないのか)の分析や、識別事項について工夫しつつ、ありそうなものを想像で列挙する作業は、正しい分析や想像ではない場合のやり直しに要する作業時間も含めれば膨大な時間を要するが、全面証拠開示とすれば、全て割愛出来る無駄な時間である。

民訴側のIT化が進み、その波は刑訴側にも波及するだろうが(法的には何の根拠も無いが、今時、刑事事件の打合せにマイクロソフトチームズが使われることは普通に見聞きする現象である)、手始めに、捜査機関が作成入手した証拠は、全てデジタルで「も」管理し、作為が入らない形で目録化され、それが自動的に弁護人にも共有されるようにすれば、整理手続の短縮は容易であろう。
そこに目を向けず、分析や想像による証拠開示作業を繰り返させ、予定主張の提出が遅い、と非難するのは筋違いである。

(2/2・完)

(弁護士 金岡)