1.本年3月15日付け本欄で、件名の同席権を論じた。「同席を求めることは不当では無い」とした名古屋地決平成20年10月27日は、刑事専門誌である季刊刑事弁護58号にも収録され、少々大げさに言えば刑事弁護実務に一つの光を当てたのでは無いか、と思う。
2.さて、同決定から7年半、驚天動地とも言える事態が起きた。
本年2月20日付け本欄で紹介した勾留却下事案が、その後、同席させろ・させないで検察と弁護人がもめること3度、検察準抗告棄却後僅か2ヶ月足らずで、なんと被疑者の再逮捕に発展したのである。
逮捕状を請求したのは名古屋地検所属の後藤知宏検察官、逮捕状を発付したのは名古屋簡裁所属の裁判官である。
3.前回勾留の必要性が無いと判断されてから僅か2ヶ月足らずで何が変わったというのか。逮捕状請求書によれば(なお、同一事件の再逮捕については例外的事情が必要と解されているので一定の説明が付される)、要旨「前回釈放時に呼び出しに応じることを約束しながら、取調べに弁護人の立会が認められないことを理由に取調べを拒否して呼び出しに応じない」「正当な理由無く呼び出しに応じない」「任意の捜査に応じる可能性は無く、処罰や追及を恐れて逃亡、罪証隠滅のおそれがある」というものであった。
・・・一読して意味がわからない、というのが偽らざるところである。同席権について見解の対立があるとしても、裁判例が支持した歴とした見解に依拠した対立である以上、同席権が容れられないことを理由に出頭できないと対応することは一つの見識であり、それと逃亡疑いが生じるかとは別次元のことであろう。論理の飛躍にも程がある。
そして、任意の事情聴取と言いながら、出頭を義務付け、出頭しなければ逮捕できる、というのであれば、それはもはや任意では無く強制である。しからば、上記論理による逮捕は、結局のところ、在宅被疑者に取り調べを受ける義務を肯定しているのと同義、とさえ言えよう。恣に取り調べが出来ないなら逮捕する、傲慢にして強権的な態度である。身体拘束を求める強権を与えられていることへの畏敬的な態度は微塵も無い。
4.恐ろしいことは、この論理に同調して逮捕を許可した裁判官がいる、ということである。なお、裁判官は検察提出資料に基づき逮捕の必要性を判断したので、「正当な理由無く呼び出しに応じない」のではなく弁護人(つまり私)が繰り返し同席による取り調べを求めていた経過を教えられないままに判断したのかも知れない。そうであれば、裁判官を責めることは(ほんの少しだけ)気の毒である(なので一応、匿名にした)。
5.問題は、しかし、ここにとどまらなかった。
検察官は再逮捕した被疑者を数時間で起訴し、勾留を請求(正確には職権発動の促し、いわゆる逮捕中求令状)してきた。起訴された被告人であれば、逃亡のおそれは公判出頭が確保できるかどうかと言い換えられるから、同席問題で検察に出頭しないような問題は生じない。つまり、前回釈放され、その後も平穏に推移していた被告人が、こと公判出頭に応じないと疑うような事情は無いはずであった。十中八九どころか、95%、勾留は無いだろうと考えていた。
ところが、名古屋地裁所属の横井千穂裁判官は、被告人を勾留した。
私は、同裁判官に対し勾留しないよう意見書を提出し、面談もしたが、例えば、検察官がどういう理由から再逮捕に踏み切ったかについて確たる資料(逮捕状請求書を確認したのは後日である)が無かったため、同裁判官に検察官がどのような点を問題視しているか確認したところ、返答は「捜査の秘密だから教えられない」という。・・正直、唖然とした。起訴後勾留の局面で捜査の秘密が問題になる、という感覚でいられては、土台、話になりようも無い。後日、被告人に確認したところ、同裁判官からの質問に際し公判出頭意思を確認されたり、検察庁に出頭しなかった理由を聞かれたりすることは無かったと言うことであったので、この裁判官が、全く問題状況を理解しておらず、捜査機関の言いなりなのでは無いかという疑惑は確信に変わった。
6.ともあれ、被告人は勾留されてしまった。
再逮捕から約22時間の出来事である。
(弁護士 金岡)
(後編に続く)