最近の本欄が共謀罪関連ばかりとなっているが気にせず。

5月16日付け毎日新聞の報道によれば、例の一般人の対象性の問題について、「あり得ない」→「ボリューム限られる」→「嫌疑の段階で一般人でない」という政府答弁の変遷が皮肉っぽく取り上げられていた。
報道による限り、副大臣答弁「何らかの嫌疑がある段階で一般の人ではない」から、一般人を捜査対象にすることはあり得ないそうだ。児戯そのものの論理のすり替え、惨めな詭弁と言うほかない。

一般の方でもピンとくるよう、最近の実際の刑事記録から、一つ、話題を提供しておきたい(もとより、事案は改変する)。

ある殺人事件で、死体が発見された一室の、別の部屋の卓上から、ある指紋が採取された。その指紋は被害者を含む住人のものではなく、かつ、警察のデータベースには前科者として登録があった。そこで警察は、その指紋の持ち主A氏に電話し、事件当日の行動を確認したところ、彼は家具店勤務であり、事件の数日前、そのテーブルをその部屋に運び込んだことが判明した。
以上の一連の捜査経緯、捜査結果が記載された捜査報告書には、「容疑者Aに電話し、事情を確認したところ」と記載されていた・・・。

「嫌疑」というものは、実に、この程度である。もっと言えば、この程度以下の、げすの勘ぐり程度でも、捜査開始の口実にはなる。
現場に指紋があって、前科持ちだと、いきなり殺人事件の嫌疑をかけられる。どうしてこれが、一般人を100%、捜査対象から外す保障に繋がるのだろうか。
この間の一連の国会答弁は、まやかしとか誤魔化しとか言うより、法律家から見ればはっきり「嘘」と分かる水準まで来ていることを強調したい。

(弁護士 金岡)