別居に合理的な理由が無い等として日本人配偶者の在留資格による在留期間更新がされなかった案件で、提訴後、並行して進められていた退令手続において日本人配偶者資格の在留特別許可が出るという経験をした。厳密さを欠くが、平成28年1月~4月にかけて更新不許可、平成29年6月に在留特別許可という、短期間で真逆の判断である。
提訴すると余程のことが無い限り自主的な見直しはないと思っていただけに(別の事案では、提訴中だから一切の見直しを拒否すると担当者から公言されたことがある)、かなり意外であったのが率直なところである。
思うに、提訴後、事実関係を掘り下げて婚姻実体を裏付ける資料を作り、口頭審理にも立ち会って調書作成に介入し続けたことの成果であろう。

それにしても思うのは、「別居に合理的な理由が無い」という被告側(入管側)の主張である。本欄「在特訴訟で逆転勝訴(その二・完)」でも紹介した名古屋高判、京都地判が指摘するとおり、夫婦関係は益々多様化しており、特に、一定の生活様式が出来上がったもの同士の婚姻においては必ずしも完全な同居を伴わないことも珍しくない。
大量的に事務処理をしなければならない処分庁が同居に着目するのは強ち間違いでは無いと思うが、完全な同居でない場合でも当事者が夫婦関係を主張する場合は、その説明が成り立ち得ない程のものかどうか慎重に判断する姿勢が求められよう。

訴訟でしばしば経験することは、被告側から、正常な夫婦ではないとか、別居に合理的な理由が無いと主張されることであるが、思うのは、「じゃあ偽装結婚と言いたいのか」ということである。偽装結婚なら、籍を貸す日本人側に経済的その他の利得若しくはこれに代わる要素があるはずであり、それが論証できないなら、夫婦の多様性を前にすれば言いがかりに等しいのではないかと、自重して欲しい。
依頼者は不本意にも1年以上、不法残留状態になり、弁護士費用も費やした負担は、償われない。被告側の説得力に欠ける表面的な主張を見る都度、不利益処分は慎重に行われなければならないと言うことを思うのである。一介の弁護士が集められる程度の資料で覆るなら、そもそも不利益処分自体が形式的に過ぎたという証左である。

(弁護士 金岡)