退令発付処分後の事情変更に基づく救済の在り方として、長らく「在特義務付け訴訟」を研究実践し、(なぜだか一向に最高裁は統一見解を出そうとしないが)高裁段階でも適法性からして判断が割れている。このことは本欄でも過去に取り上げたと思う。

私の中では、取消訴訟→再審情願→だめなら義務付け訴訟、と進むことが一つの定跡と化しており、それにより救済された(=在留資格を得た)依頼者も複数いる。
これに対し、入管当局は、義務付け訴訟は不適法という立場を崩さず、例えば依頼者が仮放免の手続に行くと、そのような「出鱈目」を吹き込む。これに対し苦情を出すが無視される、ということはお約束のように繰り返している。

さて、昨年から、どうも少し新たな動きが生じたようだ。
「保証の限りではないが1年で戻れる見込みがあるので、裁判にせず、帰国したらどうか」と、入管当局から勧められる依頼者が登場したのだ。
裁判を止めさせたいがための、お為ごかし、と捉えることは勿論可能だし、その可能性は大いにあるのだが、他方で、「ちょっと帰国したら入国させるから」的な取り引きが暗黙のうちに成立し、それに則って極めて短期間で再入国している方がいることも内々に知られているため、「居座りは認めないけど、少し、けじめをつけてくれれば悪いようにはしない」という持ちかけに全く信憑性がないわけでもない。

などと考えていると、ついに、文書まで配布された案件が登場した。
以下に、抜粋を掲載しよう。

(抜粋)
「あなたに対する退去強制令書の発付処分は確定しており、同処分が撤回される見込みはありません。」
「しかし、あなたが退去強制に応じ、速やかに出国するのであれば、あなたと現配偶者との婚姻関係が今後も継続されることを前提とした上で、出国前に在留資格認定証明書の交付申請を行い、本邦からの出国後概ね1年が経過した時点で、この証明書の交付を受け、入管法第5条の2の規定により、再び日本への入国が認められる可能性があります。」
「なお、在留資格認定証明書の交付の可否については、あなたが日本を出国した後、再度の入国が認められる時期(出国後おおむね1年が経過した時点)を勘案して、所要の審査を経た上で判断されることになります。したがって、上記の説明は、在留資格認定証明書が交付されることをあらかじめ保証するものではありませんが、あなたと配偶者との現在の法律上及び実態上の婚姻関係が、今後も継続して維持され、経費支弁能力等、今回の退去強制により上陸拒否事由に該当することとなった点以外で問題がないことが提出資料等から認められる場合に、交付される見込みがあることをお伝えするものです。」
(抜粋終わり)

文書まで配布されるとなると、裏取引の持ちかけではない、ということになろうか。
帰国後、現状を維持して1年過ごせば、「かなり」期待できる、と、貰う方は受け取るだろう(裁判になれば「保証はしていない」の一点張りだろうけど)。
退令発付処分が撤回される見込みがない、という、裁判所を無視した相変わらずの立場にはうんざりさせられるし(ここでは深入りは避けるが、令状審査なしに無期限収容する国家権力を有する入管は、実質治外法権の世界だ)、「脅し」と取らざるを得ない。問題は、これが裁判を止めさせたいがための「騙し」なのか、それとも、「けじめ」を求める類なのか。
情報を公にし、監視が必要だろう。

(弁護士 金岡)