本年6月20日の毎日新聞朝刊、人生相談欄を読んで、非常に驚き呆れた。

「夫はイライラすると家族を怒鳴ります」「キレた時は嵐が通り過ぎるのを待つしかない状況です」等として、「キレる夫への対処法」を問う、人生相談に、ヤマザキマリ氏が回答されている。

その回答は、アップル創設者のジョブズが周囲を罵り怒鳴り声を浴びせる人生を辿ったと指摘し、ジョブズを敬う人は、いちいち刺激されたり翻弄されたりしないよう精神を鍛えたのだと論じた上で、結論、「選択肢は耐えるか諦観かのどちらかです」とした。

私は、自身をDV問題の専門家と気取るつもりはなく、一定数、扱った経験がある程度だと弁えているが、それでも、この回答が明白に間違っていることくらいは分かる。怒鳴りまくられ、それになすすべなく耐え続ける中で、自己肯定感、自尊感情を奪われ、徐々に隷従していく・・これが構造化すると、自分の方が間違っているのではないか、自分が無価値だから怒られるのだ、無価値な自分を糺そうとしてくれているのだ等という感情に囚われ、そこから抜け出そうという考えすら失われていく。そのような現象が有り得ることは広く知られているはずだと思っていたが、上記のような回答が堂々と紙面に載る当たり、どうもそうではないようだ。
勿論、この記事を掲載したことを以て毎日新聞がDVに無理解だと決めつけるつもりはなく、単に契約した回答者の記事を載せただけには違いあるまい(ちなみに、同じ日の夕刊には、福島瑞穂氏が「DVを思い出すんです。あれも夫が妻に、お前は無力だ、諦めろと言い続け、服従させるでしょ・・」と発言している記事が掲載されている。こちらはさすがと言うべきか、実に正しい。)。
しかし、毎日新聞社が有識者と遇する回答者の、人生相談における回答を掲載したからには、それが沢山の読者の耳目に触れ、それも正解として受け止められるだろうことを考えれば、余りに不見識と言わざるを得ないだろう。

回答としては、それがまさしくDV被害であることを指摘して相談者に気付いて貰うこと、自治体の女性相談窓口等で正しい知識の獲得と、状況の深刻さに応じた幾つかの手段を知ること、いざというときのために専門性のある弁護士との繋がりも作ること、一人で渡り合おうとせず、家庭外の第三者を交えて、DV加害者側にも気付いて貰うよう話を持っていくこと、でなければならない、と考える。

(弁護士 金岡)