以前、本欄で、「とある『刑事専門』事務所との紛議」について紹介し、実費を含めた全額返金対応が「されてしまった」こと、「他で稼げば良いから紛争は全額返金で終わらせる」的な対応にも思えることを紹介した。
公平に言えば、クレーマー対策として返金してさっさと終わらせると言うことは有り得るものの、刑事専門を標榜するなら、正々堂々と、徴収した弁護士費用の正当性を掲げて対抗して欲しいという気持ちがある。

さて、今般、起訴直後に「刑事弁護に強い」を標榜する事務所の弁護士と交代で受任した事件がある。着手金3桁に、接見日当は1回6万円(但し、片道1時間近くかかる警察署ではある)、さぞ充実した弁護を展開しておられたのだろうと思いきや・・引き継ぎ精算時、着手金は返すから日当と実費だけ請求する、と仰る。
そこで実費の明細を出して、と要求すると(当然の要求だが、特に今回は実費が15万円を超えていたので、捜査段階だけでなんで15万円も?まさか毎回タクシーで接見?といぶかしく思ったのだ)、半日もせずして、日当も実費も全部放棄する、と、対応が変わった。
本当に15万からの実費がかかっているとして、かつ、自身の弁護活動に恥じるところがないなら、せめて実費くらい粘れよ、と言いたくなる。

やはり、消費者加害の匂いを感じないわけにはいかない。
刑事事件に強いことを標榜すればするほど、顧客は引っかかりやすくなる。高額をふっかけても顧客は強さに期待して喜んで払う。幸運にも上手く行けば文句は出ない。失敗を重ねても、全額返金対応をしておけば大きな問題には発展しない。回転率を上げるため揉めそうなら全額返金して、金払いの良いところからn弁護士費用の徴収を重点化する。
こういう発想でことが進んでいるなら、消費者加害そのものだ。

客観的に弁護活動の善し悪しを査定し、約定の弁護士費用が相当か否かを判定することは難しい。本件に準えて言えば「標準的捜査弁護とは何か」という指標が必要になるからだ。医事紛争では不法行為性を巡り一般的医療水準論というものがあるが、消費者加害性のある弁護活動該当性を巡り一般的弁護水準論の指標の確立は可能なのだろうか。誰がどのように鑑別したものだろうか。難しい問題ではあるが、野放しというわけにもいかないだろう。

(弁護士 金岡)