刑訴法226条の起訴前尋問、227条の起訴前尋問と、何れも「捜査に支障を生ずる虞がないと認めるとき」、裁判官は弁護人の立会を許可できる。とはいえ、227条は供述を変える虞がある時であり、226条も捜査機関に拒否的な証人を尋問しようという場面だから、検察官は弁護人を立ち会わせたくはないのが原則だろう。そして検察官が反対すれば、裁判所はたって許可を強行しようとはすまい。
かくして、立会許可は滅多にされないのではないか、という印象である。ここ数年で3回4回は許可を申請したと思うが、一度も実現していない(10年前に、証人が退去強制になる前にと言う案件で立ち会ったことが一度あるだけ)。特に227条は、証人が種々の思惑から検察官に迎合する危険があり、弁護人を積極的に立ち会わせる意義があると思うにつけ、このような運用には疑問が大きい。

ところで今回、ひょんなことから、証人の付添人として起訴前尋問に立ち会った。
証人がいわゆる供述弱者であるため、少なくとも医師の立会が必要だとなり(病院側から煙たがられる中で主治医の理解を得るべく足を運び続けた時は、現場百遍とでも言おうか、初心に立ち返らされる思いだった)、更に精神安定のために代理人弁護士もと本人が希望し、一旦は決まった期日を延長してもらった上で(裁判官は常識的だが英断をした)、その線で交渉した。接見禁止との兼ね合いで、検察は難色を示したと言うが、尋問実現のため妥協が得られ、主治医と2名して、立ち会った。

法廷ではなくラウンドテーブル、本人を挟んで2名の付添人が座り、検察官は最も遠い対角線上に着席して尋問を行う。主治医は本人の動静を観察できる体勢を取る。本人の要望を踏まえて部屋の照明も半分に落とし・・と、異例ずくめの尋問であった。本人が言い淀んだ時に私が一種の通訳的な役割を果たしたり、気持ちを酌んで検察官に注文をつける一幕もあり、異議権とは程遠いものの、それなりに足らざるを補うことは出来たのではないかと思う。
・・と、考えると、今回「ひょんなこと」が起きなければ、御本人は、何の援助も得られないままに警察官・検察官に一人で立ち向かわなければならなかったわけであり、空恐ろしく感じる。

「参考人事情聴取」の可視化、という議論もあり、僅かながら実践例もあると聞いている。私は可視化論者ではないが(先だっての季刊刑事弁護99号でも、そのように語らせて頂いた。二重三重に不利な供述環境の中での闇雲な可視化は、足枷になる。近時の無罪判決の中に、取調録音録画を精査して供述調書の信用性を否定した事例が複数あるが、これを可視化の手柄と評価することは出来ない。信用性のない供述調書に署名せざるを得ない供述環境で供述に応じることを阻止し得ない現実こそ問題なのである。)、弁護人の統制が全く及ばない領域なら、可視化「でも」しないよりは「まし」だろう。
警察・検察も、もし本気で、極めて適正な供述採取を実施しているというのであれば、痛くもない腹を探られるのも不本意だろうから、「参考人事情聴取」を可視化すれば良かろうにと思う。

(弁護士 金岡)