なかなかにひどい法廷だった。ありがちなのはなんとなく分かるけれども、いざ目の当たりにすると格別である。
第1回公判前日に追起訴が出て追加の証拠請求は未了、そんな状況下。
まずA被告人の弁護人αは、当初請求された甲号証を全部同意した。B被告人の弁護人βは、「追起訴直後なので全部留保」とした。C被告人の弁護人γは「当初請求証拠に対する任意証拠開示も未了なので全部留保」とした。
裁判官「検察官、任意開示はいつころになりますか」
検察官「任意開示する必要はないと思いますが・・まあ、請求証拠の処理を終えてから順々に」
裁判官「次回期日はどうしますか」
弁護人γ「任意開示が未了な上、追加請求分に対しても任意開示請求を行うので、検察の宿題の期限を切らないことには決めようもないでしょう」
裁判官「他の弁護人は如何ですか」
弁護人α「任意開示は考えていないので」以下略
弁護人β「任意開示は考えていないので」以下略
かくして、歩みの遅いC被告人の事件だけ分離された。
突っ込みどころが追いつかない。
1.全体の証拠状況も確認しないまま全部同意する弁護人α
2.任意開示を考えていないと恥ずかしげもなく言い放つ弁護人α、β
3.「任意開示する必要はないと思う」と言い放つ検察官
4.(任意開示を求めず証拠意見を述べる弁護人を当然視している裁判官)
これが現実か・・と思わざるを得なかった。
検察官が厳選した、つまり検察官に最も有利に構成されたに過ぎない請求証拠だけを見て適切な証拠意見が出せると、どうして考えられるのだろうか。被告人の知らない領域に被告人に有利な真実が潜んでいるかも知れないと、どうして考えないのだろうか。
検察官が厳選した証拠を見るだけで満足してしまうなどというのは、刑訴法が予定している弁護人の役割を完全に放棄していると評価せざるを得ない。こんな弁護人ばかりの刑事法廷は、さぞかし低空飛行で、だからこそ、3番4番のような検察官、裁判官が、糺されることもなく寧ろ生息領域を拡大してしまうのだろう。
弁護人γは私だが、横で見ていて寒気がした。帰路、被告人Cからも、ABは可哀想ですねぇという述懐があった。
(弁護士 金岡)