被害者に対し受領拒絶を供託原因とする供託を行ったところ、「被告人から直接、手紙が届いた」と被害者が苦情を述べる事態に発展した案件がある。
結果的には被害者の勘違いなのであるが、被害者がそう思っても無理からぬところはある。供託の落とし穴と言えそうなので、取り上げておく。
供託金を納めると、被供託者に供託通知が行く。
問題は、この供託通知の外見である。
今回のK法務局の場合、無地の白封筒を用い、供託書の供託者欄に記載された供託者の住所氏名をコピーし、それが窓付封筒の窓から見えるような体裁で供託通知を拵えていた。
その結果、供託者本人(つまり加害者本人)が差出人に見える、無地の白封筒が出来上がり、これをK法務局が被害者宛に直接、送付したため、前記のような苦情の事態に至ったのである。連絡を欲しくない被害者側からすれば、大事な供託通知を、それと知らず、開封せず、廃棄して仕舞いかねない事態だろう。
腑に落ちないのは、第一に、法務局と分かる封筒を使えないのかと言うことである。刑務所からの手紙は世間体が悪い、という感覚は分からなくもないが、法務局からの手紙はそうでもないだろう。法務局と分かる封筒にすべきだ。
第二に、供託手続は代理人が行い、供託者欄にも代理人の住所氏名が明記されているのに、わざわざそこを切り離して供託者本人部分だけを使ったため、供託者本人が差出人に見えてしまう。わざわざそこを切り離す意味がどこにあるのか、不明である。犯罪被害に関係しており、受領拒絶故の供託だという内容まで了知しているK法務局が、殊更に被害者を刺激するような外装にしてしまうとは軽率に過ぎる。
以上の問題点を指摘し、あわせて、被供託者に代理人がいる場合に被供託者代理人宛に供託通知を送るような工夫が考えられないかを質問し、K法務局に回答を求めたところ、【本年1月24日改訂】次のとおりであった。
(1)供託者が通知を行うのが本来であるので、供託規則16条1項以下に基づき法務局が代わって通知を行う場合でも、封筒に法務局名は出さない。
(2)供託者が通知を行うものである以上、供託者代理人名は記載できない。
(3)被供託者に通知を行うものである以上、被供託者代理人には通知できない。
(4)どうしてもというなら供託規則16条1項以下の請求をしなければ良い。
と、こうである。代理人弁護士の権限を軽んじ、隙あらばないもの扱いしてくるのはお役所の御約束だが、供託規則16条1項以下の場合の運用改善提案に対し「嫌なら利用するな」と言う、お手本のような救いがたい回答であった。
今回のことで懲りたので、別件の供託では、相手方(被供託者)代理人に了承を得て、被供託者住所を相手方代理人住所とする工夫をした(但し、N法務局から、相手方代理人の事務所名までは入れられないと言われたので、同じ階に号室がなく複数の事務所があるような建物の弁護士事務所だと、供託通知は迷子になってしまうだろう・・)。
(弁護士 金岡)