愛知県弁護士会の刑事弁護委員会に変革が訪れようとしているのかも知れない。
これまで一握りの幹部が「順送り」で決めていた刑弁委員長に、「順送り」対象でない弁護士が名乗りを上げたというのだ。

2003年度以来、刑事弁護委員会に籍を置いてきた私の経験では、刑弁委員長は年度初めの委員会で「なんとなく」他薦があり、ぱちぱちと拍手をして決まっていっていた。(特に登録当初は)何故その弁護士が推薦を受けるのかも分からなかったし、適性も分からなかったが、対抗馬もいないのだから議論になるはずもなく、ただただ追認していただけだった。委員の互選により選任すると言うが、極めて形式的儀式的なもので、中身の欠片もなかった、と言えよう。
無論、結束力や協調的運営も必要には違いないから、それで上手く回る分には問題が無かったのかもしれないが、そうしていったツケが、(司会の立場でありながら有罪の冒頭陳述を行った当時の委員長をはじめとする)偏った思想の一部層の跳梁跋扈を許し、例の処置騒動を呼び起こしたと考えれば、最早そのような内向きの議論は通用しない。少なくとも、刑事弁護の技術、理念を共有できなかった当時の委員長や調査部会の面々は、刑弁委員長職からはもとより、委員会の運営的立場からも、当面、退くのが筋だろう。

ところが、小耳に挟む限りでは(従って確定的に正しい情報かどうかは分からない)、次年度(2021年度)の刑弁委員長に、調査部会の構成員だった弁護士への「順送り」が予定されているという。これを聞いて「逆戻りか」と暗澹としていたところに、「順送り」対象でない弁護士が我こそはと名乗りを上げたということだ。

かつて関東地方の単位会の刑事弁護委員会で、古株が仕切ることに反発した若手層がある種のcoup d’étatを起こし、世代交代を実現したやに聞いたことがある。方法論に賛否はあれ、議論が起こり活性化するなら肯定的に評価すべきだと羨ましく思っていたが、今回の愛弁の刑弁委員長についても、もし選挙戦になるのであれば(前代未聞だろう)、是非、充実した論戦があって欲しいものだ。
組織票とか、内々で処理するといった、恥ずかしいことは止めて、時間を掛けて討論会(折しも米大統領の民主党予備選が行われているが、刑弁委員長たるもの、過去の実績から考え方まで、刑事弁護士として丸裸にされるくらいの討論会があってしかるべきだ)を行うことこそ、活気のある、刑事弁護委員会再生への道標となるのではなかろうか。

もし愛弁の刑事弁護委員が本欄を御覧になった場合は、是非、刑弁委員長の選任の在り方や、ひょっとすると選挙戦の在り方についても、関心を持ち、問題意識を持って御発言頂きたいと思う。手前勝手な選挙戦を許すようでは、再生はならず、離れた人心も戻らないだろう。

(弁護士 金岡)