捜査対象となった依頼者が、「捜査機関に見られたくない」と考える資料があるとする。
「捜査機関に見られたくない」という以上は、事件に関連があり、不利益な働き方をするだろうものであり、弁護人も、見ておく必要があるだろう。
弁護人は事件についての調査義務を負う(職務基本規程37条)。依頼者が不利だと自覚する情報も網羅的に検討して初めて、事件の全体像を把握でき、然るべき方針が立てられる。
このように考えると、弁護人が、依頼者が「捜査機関に見られたくない」と考える資料を預かり検討し、必要に応じて保管することは至極、当然である。
ところが、今般、依頼者の配偶者から受けた報告によると、上記預かり資料を持参してくれた配偶者が警察(東海署)に呼び出され、罪証隠滅容疑で取り調べを受けた、という(弁護人として依頼者から預かった旨の連絡は、私から警察に事前に連絡済みだったというのに)。それどころか、「弁護士から返して貰って、任意提出するよう」要求されたという。
考えもしなかった展開に唖然とする。
有利不利を問わず、事件資料を弁護人に預けることは当然のことである。弁護士制度が成立するためには当然のことであり、刑訴法の例の押収拒絶権も、弁護人がその手の資料を預かる立場であることを当然の前提にしている。
幾つ「当然」を重ねても足りない。
異常な恫喝と言うべきであろう。
こういう展開を許すなら、弁護人は、事件資料を一通り持参させて検討を加える、という当たり前のことすら、出来なくなり、その結果、弁護士業務が全うできなくなる。「事件に関係する事件資料を持ち込まれると困る」というような弁護士に、依頼できるだろうか。ゴーン氏の元弁護人事務所への違法な捜索もそうだが、手続を守ろうとする弁護人を敵視する政策的悪意を感じる。
(弁護士 金岡)