本欄本年7月3日で「全文公開」と銘打ちながら、誤りの多い要旨調書であるため異議申立中であると断った、例の腰縄手錠問題の異議理由について、このほど、異議が認容され、大幅に改訂されたので、本欄により訂正版を公開することとした。

それにしても、7月3日に異議を申し立て、その判断が8月7日と、一月以上、かかっているというのは驚きである。異議は遅滞なく申し立てなければならないとされている。そして、今回の場合は、録音を聞き直して逐語調書にせよというだけの話である。私の陳述時間は、せいぜい、十数分である。せいぜい十数分の逐語調書を作成し直すのに一月以上を要すると言うことが、法律上の要請を充たすかは甚だ疑問である。

とまれ、もし参考にされたい向きは、今回の訂正版を御確認いただきたい。なお、未だ誤記が数カ所確認されたので訂正したこと、今回もOCR処理の力を借りていることも、お断りする。

【訂正版】

裁判官の意見 第11回公判調書(手続)の「被告人の解錠に関する要望等」の記載を次のとおり訂正する。

被告人の解錠に関する要望等

弁護人
令和2年6月19日付け申入書,同月25日付け申入理由補充書及び同月26日付け申入理由補充書・2のとおり。裁判官,Aさんが入ってくる前に再度確認するんですが,弁護人がこういう布状のものを広げて本人の腰縄・手錠姿が傍聴人の目に触れないようにすることについて再考されませんか。禁止する意向だと聞いていますが,まだ禁止命令が出たわけではないので再考されませんか。

裁判官
電話でもお伝えさせて頂いたとおりのことを考えており,護送職員の職務への影響と,法廷内で視界が遮られる部分ができることが訴訟指揮の妨げになると考えているため,そういった布を法廷内で広げる行為については認めないということで考えております。

弁護人
私がここでこういう風に布を広げて,手錠・腰縄を外して入ってくることだけで,護送職員の職務が難しくなるとか,その一瞬のことだけで法廷の秩序が乱れるとか,全くないと思うし,実際他庁でやっていることですから,それが法廷の秩序を侵害していたら他庁は何をやっているん だということになりますし,全く合理的な理由がないと思うんですね。先ほどAさんと事前に接見しましたが,裁判官が浜松や半田とは違って手錠・腰縄を晒しものにして平気なんだとおっしゃってたというと, 非常に落胆していましたし,その最終的な理由が一般化されるのが困るというところにあるようだよと聞くと,みんな我慢しているからおれも我慢しろというのはおかしい,みんなをきちっと扱ってこその裁判所じやないかとおっしゃってましたけれども, どう思いますか。

裁判官
そういうご意見であることはうかがいますけども。

弁護人
それでも再考しないと。

裁判官
そうですね。

弁護人
では正式命令を出さない限り,私は今からこれを広げますけどもどうされますか。

裁判官
広げられる場合には。

弁護人
今から広げます。

裁判官
今から広げられるのであれば,被告人を入廷させないということで考えております。

弁護人
そうすると裁判始まりませんね。

裁判官
そうですね。

弁護人
しかし私は何らかの法的根拠に基づいて命令を出していただかない限り広げます。

裁判官
なのでもしもそういうことであれば,広げられるということであれば裁判を始められませんので。

弁護人
命令は出さないんですか。広げるなという。広げるなという命令を出して裁判を進めるのが筋じゃないですか。

裁判官
実際に広げるような行為をされたときには,広げないでくださいと言いますけども。

弁護人
もう予告します。広げますよ。だから命令を出すなら出してください。
今ですよ。はい。どうぞ。

裁判官
まだ広げて。

弁護人
広げますよ。入ってくる前から広げる趣味はないので。

裁判官
なので。

弁護人
入ってくるとなったら,広げますよ。

裁判官
はい。なので広げられるということであれば,被告人を入れるつもりはないので。

弁護人
そうすると,入ってこない以上こっちも広げませんが,入ってくると広げますよ。

裁判官
そうですね、はい。なので。

弁護人
不毛なにらみあいはつまらないので,入れたらどうです。

裁判官
いえ,特に入れるつもりはございません。

弁護人
では私も入ってくるのを待ちますよ。

裁判官
はい,わかりました。

弁護人
ただし入ってきたら広げることは予告します。

裁判官
はい,わかりました。

弁護人
なので裁判所がきちんと禁止命令を出してくださって,それが適法に確定すれば従うこともお約束します。裁判所が広げるなという命令を出して,それが最終的に適法に確定すれば,私もその命令には当然服しますので,ご自分の訴訟指揮なり,なんなりに自信があるんであれば,広げるなという命令を出すべきだと思うんですよ。入れなければ裁判は進みませんから,弁護人が広げるかもしれないので本人を入れませんと,本人の裁判を受ける権利が侵害されますよ。それよりは私が広げるという行為を禁止して裁判を進めていただきたいですね。そうでなければずっと入ってくるかもしれない人を待ってにらみ合いが続くので。

裁判官
私が困ると思ったのが,もし広げられたときに,こちらで広げないでくださいというふうに言って,それを聞いていただけないというところになると。

弁護人
命令は守りますよ。ただ、がちゃっとあいたら広げようとしますので,禁止しますと言っていただかないと止めませんし,あらかじめ申し上げておくと,色々裁判所に説明を求めたり異議を申し立てたりすると思いますので,そこで一旦被告人の入廷を止めていただいて,その処理をしないと,入ってきちゃうと結局晒されて意味がありませんし,そこで人権侵害が起きてしまいますので,それは望ましくないですから,よーい どん、で、どっかで命令を出していただいて,そこから異議の処理などを済まして,気持ちよく始めていただくというのが良いと思います。

裁判官
言われている意味が。

弁護人
ただ異議申立権があることはご承知だと思うので。

裁判官
それはわかります。

弁護人
異議を申し立てて本人が入ってきちゃうと,晒されるわけですよね。こちらの目的は晒さないことにありますので,本人の腰縄手錠姿を傍聴人に晒さないことを目的としているので,晒さないための申立てが処理される前に本人が入ってきてしまうと,訴えの利益的なものが失われると。

裁判官
先ほど言ったとおりで広げ始めたときに,私はすぐ言いますし元に戻させますので。入廷させないので。

弁護人
はい。そういう感じで。

裁判官
じゃあ。ゆっくり入ってきてください。

弁護人
(入廷する入口のドアを開けて被告人が入廷する際、弁護人は,弁護人
席から立ち上がって布を手に取り,護送職員及び被告人がいる入口の方
向へ向かい,布を広げ始めた(布は,全部広げられた状態ではないが, それなりの大きさに開いた状態になっていた。)。)

裁判官
弁護人,護送職員の職務に影響があるので,席に戻ってください。もう入廷させないでください。

弁護人
(布を広げ始めた行為を止め,弁護人席に着席した)
今の私に対する命令ですか,これは異議を申し立てる前提で確認ですが どういう法律に基づく命令ですか。

裁判官
訴訟指揮だと考えております。

弁護人
訴訟指揮権ですか。

裁判官
はい。

弁護人
そうすると刑訴法の295条あたりの訴訟指揮権ということでよろしい
ですか。

裁判官
訴訟指揮として行いました。

弁護人
刑訴法288条や裁判所法71条ではなく,訴訟指揮権の行使ということで良いですね。

裁判官
それについては答えられません。

弁護人
しかし異議を申し立てる対象行為を特定しなければ,申し立てようがありませんし,憲法31条の原則は不利益処分を科すときには告知聴聞を行うと。
私は今自分が命令を受けましたし,これをみだりにやぶると法廷秩序法に基づいて罰金や拘置されるおそれがあるという立場に立たされているので,自分に対する侵害行為の根拠を聞いて不服申立ての便宜とし,もしくは処分の透明性を図ることを憲法31条以下の観点から当然だと。訴訟指揮とおっしゃったのであれば,訴訟指揮とはっきり言うべきであって,刑訴法288や裁判所法71条ではないんですねと言ったら,そうですねとおっしゃるべきではないでしょうか。それとも根拠条文なしにいいかげんに命令をされたんですか。

裁判官
訴訟指揮と申し上げてますが,ちょっと確認します。今何とおっしゃいましたか。

弁護人
普通は刑訴法288条,裁判所法71条が出てくると思うんですが,こちらが根拠法条を教えるのはおかしいと思うんですよね。そちらできちっと確認してから命令していただきたい。

裁判官
もう1回すいません。何条と何条とおっしゃいましたか。

弁護人
先ほども言いましたが,私がなぜ根拠法条を答えてあげないといけない のかわからないのですが,念のため申し上げると刑訴法288条や裁判所法71条というのが,この種の出来事に通常持ち出されるような気はしておりますので,ご参考にしていただけると幸いです。

裁判官
裁判所法71条はそうです。

弁護人
訴訟指揮権と71条と両方ということですか。

裁判官
71条はそうです。

弁護人
71条は使ったんですか。

裁判官
使っています。

弁護人
あとは訴訟指揮ですか。その二つで良いですか。

裁判官
そうです。訴訟指揮です。

弁護人
訴訟指揮とは295条訴訟指揮権の一般的行使のことですか。裁判所が訴訟指揮で何でもできるというわけではないですので,訴訟指揮の根拠条文を確認しないと異議が出せませんので。

裁判官
おっしゃってるとおりで大丈夫です。

弁護人
71と刑訴法295ということでよろしいですか。295以外,訴訟指揮は条文が色々ありますけども,弁護人が一番使うのが295というこ とだけで。それを使われたか教えていただければ。

裁判官
裁判所法71条のみです。

第11回公判調書(手続)の「異議申立て」の記載を次のとおり訂正する。なお,訂正部分に下線を付す。

異議申立て
弁護人
裁判所法71条に基づく命令という前提で,異議を申し立てる。裁判所法71条は法廷における秩序の維持は裁判官がこれを行うとした上で,裁判所の職務の執行を妨げたり、不当な行状をした者に対して必要な事項を命じることができるとされている。裁判所法71条のおそらく2項を使って命令されたものだと理解した。裁判所法71条の法廷における秩序というものが何かということは抽象的な規定ぶりだが,先程の布を広げようという行動は,被告人が手錠・腰縄姿を傍聴人の面前に晒されないために行ったものである。その範囲は入口で広げれば足り,今裁判所職員1名の方が座っている位置, 1メートル四方辺りを,解錠の間だけ覆えば済み,10数秒もあれば終わる。裁判は,被告人が被告人席に着いてから始まるから,被告人が入廷する際の10数秒間覆い隠すことで,法廷の秩序は乱されるなどとは全く言えない。また,裁判所は拘置所職員の護送体制を問題とされ,これも広い意味で法廷の秩序の一部かもしれないが,護送職員の職務は被告人の逃走の防止にあり,被告人通用口の鍵を閉め,全員が中に入った状態で解錠するということだけであれば,被告人席で解錠しようと,通用口の入口で解錠しようと何も変わらない。そうすると,弁護人が,手錠・腰縄を解錠する間に傍聴人に晒されるのを防ぐ限度で,布を広げることが法廷の秩序に影響を与えるとは考えられない。法は裁判所の職務の執行を妨げる,もしくは不当な行状をする者にと規定するが,わずか10数秒の措置なので裁判所の職務が妨げられることにはならないし,弁護人は被告人の人格権を守るため に正当な職務行為としてこの行為を行っているため不当な行状には当たらない。裁判所法71条の文理に忠実に当てはめる限り,被告人の人格権侵害から被告人を守る,具体的には,傍聴人に手錠・腰縄姿が晒されないように配慮する行為が不当な行状になるなどという理解は失当である。

この問題について若干問題点を付言する。大阪地裁の2019年5月27日判決が手錠・腰縄姿のまま法廷で傍聴人に晒された被告人からの国家賠償訴訟において,請求は棄却したが被告人の人格的利益が侵害されていたことを肯定した判断を示している。現在の社会一般の受け取り方を基準とした場合,手錠・腰縄姿の被告人が罪人,有罪であるとの印象を与えるおそれがないとはいえない。手錠等を施されること自体通常人の感覚として極めて不名誉なものと感じることは十分理解されるとの前提に立ち,そのような手錠等の姿を公衆の前に晒された者は自尊心を著しく傷付けられ,耐えがたい屈辱感と精神的苦痛を受けることにな ることは想像に難くない。このことに加えて無罪推定の地位もある。こ のように述べて手錠・腰縄姿の被告人が傍聴人に晒されることが非常に 人権上問題であると述べている。大阪地裁の裁判官が変わり者でもない 限り,このような社会通念に関する判断は尊重すべきと考える。

裁判官も想像すればよいが,自分が手錠・腰縄姿でショッピングモールを歩くという姿が周りに好ましく映るだろうか,非常に恥ずかしいだろうかと考えてもらえば,被告人が著しく不名誉,恥辱に感じることは理解できるはずだと考える。手錠・腰縄姿を傍聴人に晒すことを法曹がこれまで 見過ごしてきたことについて,一部の有志の裁判の結果,大阪地裁がこのように判示し,議論が大きく前進した。そして私の経験上,静岡地裁浜松支部の裁判員裁判や名古屋地裁半田支部の単独事件において,それぞれさまざまな工夫によって,このような事態を回避する努力をしている。半田支部は傍聴人に出てもらい,被告人の解錠が終わってから傍聴人に戻ってきてもらうという数分の措置を採っている。静岡地裁浜松支部は移動式の衝立を通用口の入口に置いて,そこで解錠してから中に入れるといった形で訴訟指揮をすることによってこのような事態を回避した。弁護人は6月19日にこのような事例や工夫がされていることを裁判所に指摘して配慮を要請したが,裁判官から6月24日に消極であると連絡を受けた。不意打ちされるよりは潔く説明された方が,ありがたかったことは論を俟たないが,問題はその内容である。裁判所は最初に事案の性質を踏まえて考えたと述べたが,事案の性質を踏まえて手錠・ 腰縄姿を晒されていい被告人とそうじゃない被告人がいるという区別を弁護人は理解できない。次に裁判所は法廷の設備状況を挙げ,護送職員の体制や期日が連続で入っているという苦労話を述べ,この1件だけならやれるじゃないかという弁護人の感覚はどうかと思うという趣旨のことを述べた。その後の裁判所とのやりとりを踏まえて裁判官が言いたかったのは,本日のこの期日で被告人が手錠・腰縄姿を晒されずに済むような措置を採ることができるかもしれないが,一般化すると困るということであると理解できた。なお裁判所との電話は全て録音しているから, 簡単に証明できる。話を戻すが,一般論として,一般化すると困るというのは,つまりほかの刑事被告人が同じように配慮して欲しいと声を上げた結果,名古屋地裁の約20ある全部の刑事法廷に衝立を置かなければならないとか,そのために職員が走り回らないといけないのは困るという意味だと思うが,浜松支部のように法廷に衝立を常設すればそのような労力はいらなくなる。書記官が衝立を動かすだけで簡単に遮へい措置が採れる。証人の人権を守るためには蛇腹のカーテンと衝立3枚に必死になる裁判所が被告人の人権を守るために衝立1枚も動かそうとしないのは非常に不公平であり,衝立1枚を動かすぐらいの努力はできてしかるべきである。あるいは傍聴人に一旦出てくださいと伝えて傍聴人が出て,その後被告人を解錠すればこのような問題は解決する。どちらにせよそういった工夫は可能であったはずであり裁判所が全ての工夫を拒んだ末に,被告人の手錠・腰縄姿を傍聴人に晒しても良いと判断したことは非常に問題が大きい。もし今回をきっかけに他の被告人が配慮を求め始めた場合は,そのような需要があるということであり,どの被告人も手錠・腰縄姿を晒されることが当たり前だと受け止めていたが,それが恥辱だから配慮を受けられると言うとすると,裁判所がそのような配慮をすべきなのであって,みんなが我慢してるのだからあなたも人権侵害を我慢しなさいと言うのは裁判所が言うことではない。ほかの裁判官が有罪主義だから私も有罪書きますという裁判官はいない。それを考えれば,ほかの人がどうであれ自分は自分の人権感覚を信じるというのが 裁判所の独立した訴訟指揮権であって,それを真逆にも一般におもねって,今日のところは我慢しなさいと,みんながそうなんだからあなただけ良い目をするわけにはいかないでしょうなどというような訴訟指揮をすることは間違いである。このように裁判所が応じないので,弁護人は 仕方なく布を持ち込むことを裁判所に昨日の夕方提案し、今朝正式に書面で提案した。裁判所が工夫をしない以上,弁護人は依頼者が不当な恥 辱を受けることがないよう守らなければならない。かつて被告人席はお白洲の場といって,法廷の真ん中に座らせられ,そこには机も何もなく,明らかに裁かれているという印象を受ける席だった。それがSBM運動という一つの運動によって被告人が弁護人の傍に座るのは当たり前であり,隣に座らない方がおかしいという声の中で,裁判員裁判の導入をき
っかけに身柄事件でも被告人は隣に座る景色が定着した。

そのような歴史に鑑みれば間違っている点は改めるべきである。被告人を法廷の真ん中に座らせることが,被告人は裁かれるものだ,有罪前提という印象を与えることがよろしくないということで改善されたという歴史に鑑みれば手錠・腰縄姿を晒すことがよろしくないから,これを変えて行きましようということは一人からでも始めるべきであって,一般がこうだから 止めておきますということは,悪しき前例主義であって,みんなが人権侵害されているのだからあなたも人権侵害を我慢しなさいということに全く説得性はありません。被告人から事前に意見を聴きましたが,これは決して弁護人のスタンドプレイではなく、依頼者が自分は晒されても平気ですという方なら、私もこれを強行しようとは思わない。被告人はこれまで保釈されていたこともあって,手錠・腰縄姿を傍聴人に晒されるのは非常にきついと述べていた。そうであれば,浜松支部や半田支部のような裁判官の訴訟指揮において,辱めを受けないようにできるかぎりベストをつくそうということを被告人に約束して,裁判所と協議を重ねましたが,どうしても応じてもらえなかったので、布を広げて視界を 覆い隠し,そこではずしてもらうという方法を提案した。本来裁判所が動くべきところを弁護人が代わりに動いた。これは被告人の人権侵害を守るためなので,緊急避難といえるかどうかはともかくとして,弁護人の正当行為には間違いない。したがって裁判所法71条2項の不当な行状にはあたるはずはなく,弁護人の正当行為を誤った法律を適用して,制限したことは違法であるから異議を申し立てる。