愛知刑事弁護塾では、毎月、勉強会や研修会を実施している。
本年は新型コロナの影響で外部講師の招聘に支障が生じたが、10月定例会において外部講師の講義が実現した。昨年はジャーナリストや精神科医など幅広く招聘したが、本年は筋金入りの刑事弁護人3名を招聘する予定であり、その第1号である。
自由にお話頂いたところ、話題は「裁判所による不意打ち」に収斂した感がある。
検察官の証明予定に悉く反論反証に成功しても、(検察官は勿論主張しない)思ってもいない証拠評価、筋書きで不利な判決を受ける現象である。とある著名事件では、この点が咎められて破棄差し戻しとなったが、それは極めて例外で、大多数の事件は「不意打ち」としか言いようがない煮え湯を飲まされ、その後も糺されない。
そういえば、つい先日、上告趣意書を出し終えた事件でも、「性行為を90分に亘り半ば無理強いされた」と主張する被害者のスマートフォンに、開始後約30分からアダルト検索履歴が登場するという致命的矛盾があったのだが、これを等閑視した高裁判決は、「恥ずかしくて認めることができなかった可能性がある」と断じた。
検察官も被害者も主張しない珍回答により有罪を糊塗する。悪い意味で奇想(珍奇な妄想)と言うべき代物であるが、これも同根だろう(そういう可能性を考えたなら、判決で実行に移す前に、被害者を再尋問しなければならないはずだ)。
誰もが一目を置く最先端の刑事弁護人においても、緻密な検討と技巧を尽くした末に煮え湯を飲まされる。その現象が実によく共感できる。それがそのまま、刑事裁判の現状を意味するのだろう。
(弁護士 金岡)