本年10月26日午前のNHK報道にて、河合前法務大臣の事件を取り上げ、異例に大量の構外尋問が実施されていることを指摘の上、「刑事IT法廷」の試金石だと言わんばかりの吹聴がされていた。有識者として大学教授も登場し、「適正な手続の下に真相が解明できるかの試金石となる」と発言していた。
河合前法務大臣の事件で大量の構外尋問が実施されているとすれば、主として100日裁判の要請から広島界隈で多忙な証人を適切な順序で東京に呼び集めるのが困難だからではないだろうかと想像される。副次的にはコロナ禍の影響もあり、社会情勢を盾に直接主義が後退を迫られたのだろうが、これは弁護人が折れなければそうはならなかっただろう。
主としては、100日裁判の要請であり、IT法廷志向とは関係がないのではなかろうか。これを、「時代遅れの紙媒体」「紛争解決が遅く国際協力に耐えられない民事裁判の改革」と同列に論じるのは強引に過ぎると感じた。
おまけに、上記事件で構外尋問を体験した証人は、「緊張せずに話せた」「被告人が目の前にいると話しづらい」と、実に正直な感想を漏らしていた。
皮相な見方かも知れないが、厳しく監視されなければ相対的に誤魔化しやすいだろうし、本当のことを知っている被告人が目の前にいなければ気兼ねなく嘘をつける、ということにも繋がろう。
直接主義の要請は伊達ではなく、この正直な感想は、刑事IT法廷の危険さを端的に言い表したものだと理解すべきだ。
上記番組では、法廷通訳がオンラインで参加する局面について、司法通訳士連合会の方が、要旨、オンラインでは情報量が不足するので適正な通訳は難しい、研究して問題点を明らかにしていく必要がある、と仰っていた。
流石に、communicationを生業とする方の意見である。本欄本年9月29日「自分の尋問を見る(聞く)」でも取り上げたが、「非言語コミュニケーション」は思ったより比重が大きい。壁越し、モニター越し、マスク越しでは、基本、不十分だということこそ、今の時代に共通認識として持つべきだと考える。
なお、法廷のIT化は無理があるが、手続面で、より電磁的記録の手法を利用すべきことは別論である。職務質問時の写真を翌日には廃棄したとか、ドライブレコーダー画像が偶々残っていなかったとか、備忘録は順次廃棄したとか、警察のつく嘘は、醜く、見え透いて、目に余る。捜査時に取得された音声や画像は言うまでもなく、紙媒体の資料も電子化して後の検証に耐えられるようにすること、リスト化して改ざんを許さないようにすることは、今からでも出来よう。
(弁護士 金岡)