とある保釈不許可決定に対する異議申立において、原審裁判官の意見が詳しく提出されていた。その事案では、保釈の社会的必要性として、被告人が実子の認知調停を行っており、認知調停に出頭した上でDNA鑑定を行う必要があるが、これは身体拘束下ではできないという事情があった(「毛髪宅下国賠」の論理からすれば、被告人が自らの生体試料を宅下げすることが可能なはずだが、刑事施設は保釈事件の審理中においてもこれを頑なに否定し、裁判所の鑑定命令でなければ対応しないと明言していた・・控訴すら出来ず確定させた割には、見事なまでの反省の欠如である)。
前記原審裁判官の意見では「裁判所の鑑定命令があれば刑事施設に収容された状態でもDNA鑑定は可能であるという」から、保釈の社会的必要性を否定する、という論理が述べられていた。
次なる保釈請求時には、わざわざ家裁実務系の実務書まで紐解き、認知調停は本人出頭主義であることや、家裁実務では当事者に鑑定手続を行わせるので鑑定命令など出ないことを説明したが、あえなく却下。
更なる保釈請求時に、諦めず再度、同様の指摘を繰り返したところ、今度は裁判官が家裁に電話を架け、家裁から「本人が出頭しないままだと取り下げになる」「鑑定命令は出さない」という回答がされた(ということは、秘密裏の事実調べであったので、後に知ったことである)。そして保釈が許可された。
つまるところ、「裁判所の鑑定命令があれば刑事施設に収容された状態でもDNA鑑定は可能であるという」という見解自体は正しいかも知れないが、認知調停ではまず実現しない展開であるという、家事事件を少し囓った程度の弁護士でも分かっている程度のことを、名古屋高裁は知らず、(実務書の引用まで無視して、)無為に2ヶ月も、社会的必要性のある保釈を出さなかったということになる。
最終的に事実調べをして、自らの過ちを糺したのは一応、評価に値するが、なぜそれを最初からやれなかったのか、そこが不思議である。
あと、教訓めいたものを引き出すなら、原審裁判官の意見にせよ、事実調べにせよ、基本、秘密裏に進行する。検察官意見すら謄写に難航する(謄写が早いか、判断が早いかということになる)中ではなかなかに大変であるが、足繁く記録に手を伸ばし、知らないところで書類が増えていくのを見落とさないようにしなければならないということだろう。
当事務所では検察官意見書の謄写までは事務局任せで進めているが、こういう事態を経験すると、30分おきに「なんか増えましたか」と裁判所に問い合わせなければならない、のだろうか。
(弁護士 金岡)