常習的窃盗団と目される被疑者に対し、張り込み捜査を展開した結果、定点カメラの情報から無免許運転を確認して強制捜査に進展したという事案がある。
捜査機関は、当然の如く、被疑者のスマートフォン端末の捜索差押えや、車内のDNA情報に関わる資料の捜索差押えを要求してきた。
「当然の如く」とは言っても、無免許運転の捜査に関し、被疑者のスマートフォン端末の捜索差押えや、車内のDNA情報に関わる資料は、殆ど関連しそうにない。こじつければ、当該無免許運転時の行き先くらいはスマートフォン端末内蔵データから引き出せるかも知れないが、全然別の日のデータとなると、無免許運転の動機や常習性ともかなり遠いと言わざるを得ない。
更にDNA情報を狙っていることに照らしても、捜査機関が、無免許運転の捜査を口実に、窃盗疑惑に関し、被告人の交流相手や同乗者のDNA情報を狙っていたことは常識的に明らかと言える。
令状裁判官も、同じように考えたのだろう。
上記令状請求に対し、DNA情報資料を丸々、削除した上に、更に、「本件違反の経緯、動機、被疑者の生活状況を裏付けるスマートフォン端末」の捜索差押え請求に対し、「本件違反の経緯、動機」のみを残し、「被疑者の生活状況」部分を削除した限度で、令状が発付された。
ところが捜査機関は、「A月」の無免許運転事件に対し、「A-2月」の被疑者の通信通話履歴、行動解析、画像フォルダ検索などを徹底して行い、その結果を全て、窃盗事件の証拠として作成、請求するという蛮行に出た。
弁護人として、当然、令状裁判からの逸脱を主張したが、裁判所は、「本件道交法違反被疑事件の経緯、動機を含めた真相を究明する上で、同携帯内に保存された情報を網羅的に解明する必要が認められ」として、前記網羅的な解析を全く適法と判断した(名古屋地裁刑事5部合議、板津正道裁判長)。
捜査機関の令状請求の態様からして、明らかに別件捜査が企図されていることが明白であるからこそ、令状裁判官は、かなり削除した令状を発付する限度に止めて、あくまでA月の無免許運転の動機経緯のみの解明を許したのに、係属審裁判所は、そのためには結局、スマートフォンの網羅的解析が必要であるとした。
ある犯罪に対し、なにかしら有益な情報があるかも知れないとこじつければ、令状審査など機能しなくなる。折角、令状裁判官が、捜査機関の意図を看破し、別件捜査を封じたというのに、このような底の抜けた判断をされては台無しである。
被疑者(被告人だが)は、「裁判所ってやっぱり憲法を守りませんよね、そのためだけでも控訴します」と述べていたが、板津裁判長他に比べ、彼の方が、よっぽど健全な憲法感覚を持ち合わせている。
さて、判決の愚痴はさておいて、この件の教訓としては、やはり証拠開示だろう。
違法捜査を争う上では、端緒からの捜査過程を詳らかにすることが不可欠であり、令状請求に及んでいる事案では、疎明資料の特定、令状請求書、そして令状そのものまで、確実に連なるように開示を求めていく必要がある。
今回の令状裁判官のように、別件捜査を封じるためにあちらこちらを削除した令状というのは、ついぞ見かけた記憶がないが、しっかり開示をやれば、案外あるのだろうか。自身の取り組みでは(件数的に)限りがあるが、刑事弁護人が、そのような争点を見据えて開示に注力すれば、令状裁判官の地道な英断を発見出来るかも知れない。
そして、今後の制度改革を睨んで言うなら、少なくとも起訴と同時に、当該事件に関係する令状裁判の一件記録が全て弁護人に当然に開示されて然るべきだろう。
(弁護士 金岡)