名古屋高判2021年6月10日(民事第1部、倉田慎也裁判長)は、いわゆる在特義務付け訴訟について、控訴人らのうち未成年子2名の請求を認容した。
評価の難しい判決ではあるが、高裁段階の在特義務付け訴訟認容事例は初めての可能性もあり(名古屋高裁に藤山コートのあるうちに1件、係属してほしいと期待したが、遂に叶わなかった)、ここに客観的に紹介しておきたい。
(主文抜粋)
1.名古屋出入国在留管理局長は、控訴人長女及び控訴人二女につき・・・日付けでされた出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を撤回せよ。
2.法務大臣は、控訴人長女及び控訴人二女に対し、本邦における在留を特別に許可せよ。
(理由抜粋~一部改変)
1.このように、控訴人長女及び控訴人二女は、本邦において順調に勉学を重ねて成長し、控訴人父母と離れても本邦で暮らしていくことを希望するほど、本邦への定着性が高まっているといえる。
そして、控訴人長女及び控訴人二女は、家庭でも日本語を使用し、控訴人父母が話す母語の単語の意味を理解できる程度で、母語の読み書きや会話はほとんどできない。
しかも・・・そうすると、控訴人長女及び控訴人二女が、本国において、母語を習得し、生活環境等にも適応した上、本邦に在留していれば修了したものと同等の教育課程を修了するには、相当な困難があるということができるから、控訴人長女及び控訴人二女は、本邦を離れて母国において社会生活を営んでいくことには著しい支障がある状態になっているといえる。
2.そして、控訴人長女は、大学1年生になっているから、一般には両親から離れて生活することもあり得る年齢になっている上、控訴人長女に係る本件裁決が撤回され、在留特別許可が付与されれば、新たに付与される在留資格に伴う制約の範囲内で、一定の労働をして収入を得ることも可能であると考えられる。控訴人二女は、高等学校在学中であるために自ら収入を得ることはできなくても、自分の身の回りのことは自力でできる年齢に達している上、控訴人長女と協力し合えば、控訴人父母の監護養育なしに生活することも可能であると考えられる。
また、控訴人長女及び控訴人二女に対しては、・・・が、住居の確保、大学進学の際の奨学金の確保の支援をする意向を示している・・・。
そうすると、控訴人二女において生活保護を受給せずとも、控訴人長女及び控訴人二女が控訴人父母の監護養育なしに本邦において自立的な社会生活を送ることが可能であると考えられる。
3.他方で、前回訴訟において本件各裁決及び本件各退令発付処分はいずれも適法であるとの判断が確定している以上、控訴人長女及び控訴人二女は、本来、本件各裁決後速やかに本国に送還されるべき地位にあり、仮放免も当該地位を前提としつつ一時的にその収容を解くにとどまるものにすぎないのに、控訴人長女及び控訴人二女が本件各裁決後も約12年間違法に本邦に在留したことにより、前記のような本邦への定着性が生じたとも評価し得るところではあり、これを追認することが相当であるかという疑問も生じ得る。
しかし、本件各裁決当時、控訴人長女は、控訴人二女は、何れも就学前後の年齢であったことからすれば、控訴人長女及び二女が本件各裁決後も本邦での滞在を継続したことは控訴人父母の選択によるものであり、控訴人長女及び控訴人二女に本件各裁決後に本邦への滞在を継続したことについての責任があるとはいえない。
4.以上の諸点を総合すると、控訴人長女及び控訴人二女については、本邦における在留に係る利益の要保護性の程度につき在留特別許可の許否の判断を見直すべき特に顕著な事情の変化がある・・。
(備考)
第1審の事件番号は「平成27年」を冠する事案である。
控訴審判決まで、ざっと6年。
それぞれの訴訟代理人の粘り強さには「まだやるか」と圧倒されるものがあった。
(弁護士 金岡)