午後4時41分に職務質問を開始し、その7分後に運転席ドアポケットに使用済みパケがあるじゃないかと警察官が指摘した、という事実関係下に、これを警察官が持ち込んだと認定して証拠排除した第一審に対し、「その疑いを拭い去ることはできないが、その疑いはそれほど濃厚ではない」として覆した控訴審、これに対し、控訴審判決の説示では警察官の持ち込みの有無を確定したことにはならないとして破棄差し戻しした最高裁、という案件である。
警察官が「証拠」を持ち込む等の工作を行ったと結論づけられた事案は、体感的に数年に一度以上は報告されているのではなかろうか。二度目の車両に対する捜索で、いきなり覚醒剤のパケが発見されたり、「先行する写真では何もないところ」に覚醒剤のパケがあるという写真が提出されたり。その最たるのは、以前に取り上げた、覚醒剤を密かに飲ませたとする一審判決が確定した例の件である(愛弁会報に弁護活動報告が掲載されたので、一応、公刊物登載扱いである)。
「証拠」の捏造は論外であるが、それに隣接する問題として、捜査過程の誤魔化し(というより実質捏造)も、よく問題となる。
私の経験事例では、職務質問で被告人を車両から遠ざけておき、その間に無令状で車内の探索を行い、証拠があることを確認しようという手口を複数、違法捜査として裁判所に認定させたことがある。根気良く全写真を証拠開示させて、被告人に検討して貰う中で、職務質問の最中に「車内のティッシュ箱」の位置が移動しており、警察官の無令状の立ち入りが判明したときなどは、整理手続の恩恵をひしひしと感じたものだ(整理手続が創設されて5年と経たない時期の経験)。
今回の最判は、控訴審判決が曖昧な言い方で、警察官が持ち込んだことの疑いはあるが合理的疑いとまでは言えない、と言いたかったところを、そう言い切ることに根拠がなかったのだろうか、「それほど濃厚ではない」という曖昧な言い方で終わらせたため、結論を左右する重要な事実関係を誤魔化したと判断されたようである。
直接的には違法収集証拠排除の前提事実(とりわけ評価根拠事実)の立証責任に関する普通の判決とは言えようが、上記の事実関係の下でも、「警察官の持ち込みは有り得ない」という漠たる印象ないし経験則に基づき上告棄却とならなかった、という点は、価値があるだろう。
職務質問開始後7分の間に(おまけに常習者だと判明する前の段階で)、警察官がパケを仕込むことが一般論として否定できない、という前提に立つと読むべきだからだ。
ついでに、前述したように、「証拠」の持ち込みや、無令状で事前に探索するようなことは、まま、見受けられる事象である以上、この点も可視化されるべきことであろう。
日弁は被疑者調べの可視化については熱心に発言するところであるが、より広い視野に立てば、捜査過程全般の可視化が急務である。
被害者や参考人の事情聴取は言うに及ばず、少なくとも令状に基づく捜査には録画を義務付けて良い。これらの捜査行為は、突発的に行われるものではなく、予め予定して行われるものである。故に、機材を準備することは容易である。そして警察側も、録画しながら捜索差押えを行えば、痛くもない腹を探られることはなかろう(それとも痛い腹だから探られたくないのだろうか?)。機材を準備することが容易かどうかを分水嶺にするならば、上記を離れても大方の捜査行為は、機材を準備することは可能だろう。警ら用パトカーにもハンディカムを複数台、常備し、あと、「事件終了まで(無条件で)消去しない」ということを規則化すれば良い。
それだけで、相当不毛な論争(と、ついでに横行している違法捜査)は減少すること、請け合いである。
(弁護士 金岡)