代用刑事施設から拘置所に移送するよう申し立てていた事件がある
当初の申し立て直後、起訴後取調べが行われていたことが判明したことから、起訴後勾留を悪用して起訴後取調べを強いていることを理由に加えた。

検察からは、起訴後取調べを認めた上で、「もう注意したから大丈夫」「関連事件を複数、取り調べる上で、拘置所に移送されると捜査が遅延する」という反対意見が出た。

いうまでもないが、起訴後の被告人には対等当事者としての地位が保障されなければならず、常に弁護人を横に置き、その実効的援助が受けられるものである(起訴前勾留中の被疑者が捜査機関の劣位に置かれなければならないことを合理的に説明するのは難しいが、この点はさておく)。正面からの起訴後取調べは論外であるし(この点は、本欄2019年8月30日も参照されたい)、関連事件と言えども、公判における攻撃防御が想定される以上は、既に起訴後の被告人に対し、起訴前勾留中の被疑者の「現状と同様の劣位」に置いた取調べを行うことは許容しがたいものである。
関連事件は起訴していない、という説明は陳腐であり、起訴しようと起訴しまいと余罪や間接事実として機能しうる広い範囲において、関連事件の取り調べは起訴後の取調べと等しい実質を持つことは自明である。

以上のような趣旨を論じたところ、(どの申立理由が響いたのかは分からないが)移送が認められた。

起訴後勾留中の被告人の、起訴された事件以外との関係での地位については、立法に不備があると言うことだと思われる。捜査機関からすれば、起訴後勾留中の被告人を、起訴された事件以外との関係で「在宅調べ」を行うことは純然たる任意捜査だ、という言い分になるのだろう。
しかし、特に代用刑事施設に止め置かれている場合、ある日に起訴された被告人が、捜査官や留置官との関係で、前日までと一変した対等当事者としての地位を確立出来るわけでは無い。弁護人が相当しっかり先回りして手当てしておかなければ、部屋を出ろと言われれば出て、取調室に入れと言われれば入る(私見では、起訴前勾留中の被疑者においても、「居所」即ち留置場の自室から出る義務はないが、この点もさておく)。上記依頼者も残念ながらそうなってしまった。このような実情がある以上は、最終的には立法的に、起訴後勾留中の被告人の地位を明確にしておくべきなのだろう。そうしないことには、例の「毒まんじゅう」騒動(録音録画義務の範囲を巡り、林眞琴刑事局長(当時)が「別件起訴後の勾留中の取り調べは録音・録画義務の対象とはならない」と答弁したが、日弁は反対しないままだった)のような事態が繰り返され、結局、被告人が害を受けることになる。本件の検察官の反対意見のように、関連事件について、期間制限がないに等しい起訴後の被告人勾留を悪用した在宅調べを延々とやれると当然に思い込んでいる輩も多々いることだろうことを思えば、気になったところですぐに手当てすべきであろう。

(弁護士 金岡)