整理手続の戦略上、予想される検察側証人Aの主要な証言を「否認」し、また、証拠を入手する必要上やむなく、うち一つの証言予定に対し、矛盾する事実主張を行った案件がある。
そうこうして裁判所が作成した争点整理案には、争点として、「A供述の信用性」が掲げられ、それに対する弁護人の予定主張として前記の否認内容及び事実主張が摘示されていた。
これに対し、弁護人として、恰もA証言の信用性を争うべき事実関係が上記に限られるような争点整理は失当であると反発したところ、それを捉えて検察官からは、要旨「弁護人は他にもA証言の信用性を争う事実関係の事実主張を予定していると言うことだから、全て予定主張明示義務に基づき明らかにするよう求める」という申立が行われた。
整理手続の草創期ならまだしも、15年も経て、このような訳の分からない展開になるとは驚きである。勿論、事案によっては証言の信用性に関する争点整理を予め行うことが全く以て絶無であるとまでは言わないが、ほぼ全ての事案で、それは不可能である上、役に立たない争点整理であるし、役に立たないだけならまだしも、反対尋問結果を踏まえた事実主張が(予定主張明示義務違反として)拘束されるようなことになるなら不相当である。反対尋問に基づく事実主張は、究極のところ、AならAの証言を聞いてみなければ確定しないし、また、その性質上、不意打ち要素を伴うことは当然である。故に性質上、証言の信用性に関する争点整理はほぼ不可能であり、また不相当であることは自明である。
このような争点整理案を出してくる裁判所も裁判所だが、これに悪乗りして、証言を争う事実関係を予定主張明示義務の範囲内だと主張する検察官に至っては、最早どうかしていると言わざるを得ない。
たまたま極めて特殊な裁判官と極めて特殊な検察官とがここに集結した、ということは確率的にありそうもないとすると、いまも日本のどこかでは、このような異常な争点整理を巡る攻防が行われているのだろうか・・私の行う整理手続研修でも、流石にここまで低次元のくだらない話は取り上げたことがなかったが、今後は触れておく方が良いのかも知れない。
(弁護士 金岡)