高野隆弁護士が、景山太郎裁判長から受けた、「法廷での電気使用を禁じる処分」騒動について、幾つか、思うところを書いていきたい。
【全国の実態と名古屋の歴史】
まず、大方の弁護人には驚きを以て受け止められたと思うが、こと名古屋の刑事弁護人からすると、そういうことをしでかす裁判官がいるということは既知の事柄である。
堀内裁判官(現、名古屋高裁刑事第1部の裁判長)が名古屋地裁の上席であられたみぎり、全く同じことが行われたからである。
ある程度は不確かな記憶になってしまうが、裁判員裁判で弁護人がPCを使うために電源を必要とするような場合は、いわば裁判所公認で個別に許可するとして、原則、法廷電気使用を禁止するとした(その結果、法廷の電源口には悉くガムテープがはられた)。
堀内裁判官が異動した後は、このような取り扱いは廃れた(ガムテープもいつの間にか消え失せた)。高野隆弁護士が公開した申立書によれば、景山太郎裁判長は、各地の地裁でも弁護人の電気使用を禁じていると説示したそうだが、どこぞの総理大臣よろしく、常人には見えないものが見えている類の方なのだろう。
なお、電気使用を禁じたり許可したりを、個別の裁判官が行う権限があるとは思われない。高野隆弁護士は、裁判長の処分であることを確認の上で、適式な手続を履践されているが、普通に考えれば景山太郎裁判長の説明には無理があろう。もし個別の裁判官の裁判事項だとなると、前記名古屋地裁の取り扱いは、裁判官の独立が上席裁判官により侵害されたことになる(その場合、深刻なのは、これに対し、唯々諾々とガムテープを貼り付けて恥じない羊の群れの如き裁判官だらけの地裁だったことになるという事実である)。
【法廷の電源は必要な設備である】
弁護人が着席する机や、椅子が、裁判運営のために裁判所側で用意すべき備品であるなら、電源も同様に評価できる。なにをどこまで裁判所側で用意すべきか、の定義づけは困難であるが(例えばチームズを動かすためのPCを裁判所に用意させるのは違うだろう)、少なくとも法廷に呼びつけて仕事をさせるからには、そこで充実した弁護活動が制限されないようにすることは施設管理者の義務である。
そして今日日、様々な資料がデータ化され、時には弁護人の私物のパソコンをあてにした訴訟運営が行われ(弁護人のパソコンで証拠を上映することもある)、のみならずクラウドが仕事机と化している弁護士もいるだろうことを踏まえると、電源は勿論、Wi-Fiの提供も裁判所の義務だと考えられる。
裁判運営のために(物理的な場としての)裁判所に呼びつけているのは(組織としての)裁判所なのだから、その時代状況に応じ、必要な設備を提供しなければならない。電源はその一つである。
高野隆弁護士が公開された申立書では、弁護権や弁護の公共性が説かれている。勿論、そういう高次元の話も悪くないが、個人的には、弁護権や公共性故に裁判所が設備を用意すべきなのではなく、裁判運営のための必然だと立論したい。(防御権から同旨の立論は可能であるにしても)被告人自身がパソコンを持ち込む需要だってあるだろう。その時に、被告人に公共性はないよね、という揚げ足取りは避けた方が良い。
【電源を必要とする理由による差別化は困難】
なお、例えば法廷でプレゼンするには電源の許可を出す、が、弁護人のメモのためには許可を出さない、といった、電源を必要とする理由による差別化は、正当性を持たないと思われる。必要な設備を備えるのは裁判所の義務であり、必要があるときだけ使用させて頂ける恩恵的な話ではないからである。
景山太郎裁判長は、本件が公判前整理手続期日であり、そんなに電源が必要ではないと思ったのかも知れないが・・・そういう話ではなかろう。
【景山太郎裁判長】
そういえば、私が被害者後見人として傍聴記録をPCで作成しようとしたのにだめ出ししたのも、景山太郎裁判官であった。弁護士が、利便性の向上を享受し、よりよい仕事をする、ということについて、理解を欠いた方であることが示されている。
自らこれを以て実践するならば良いのだが、勿論、氏は、裁判所の電源につながれたパソコンで、それほど必要性の認められない作業もされているだろう。的外れな文献を裁判所の費用でコピーしたりもしているはずだ。それでいて、弁護人には、的外れな要求をして活動を妨害する。なんとかは、なんとかしなければ治らない、とは良く聞くが、それを地で行く方であろうと残念に思う。
(弁護士 金岡)