周知の通り、判決の言渡しがあっても原審弁護人には控訴があるまで一定の訴訟活動が認められており、例えば保釈申立が可能であると解釈運用されている。
ここで、例えば国選事件の一審で実刑判決となり、被告人が原審弁護人に保釈申立(再保釈、上訴保釈)を要求した場合、原審弁護人にはこれに応じる義務があるだろうか。
神戸学院法学の丹治論文(2013年3月号)では、当然の如く、義務は無いとする。求められて苦悩はするが、控訴審に関与しないのに責任を負いかねるというのが素直な悩みだ、という。
原審実刑判決といっても、不本意なものもあれば予想どおりのものもあろうが、前者であれば、結果を出せなかった立場で、しかも控訴審に関与しないのに、保釈だけ通せと要求されるのは辛かろうというのは分からなくもない。ついでに言えば国選の場合、法テラスは保釈報酬加算1万円は一度きりなので、上訴保釈は完全にただ働きになると言うことも指摘できるかも知れない。
予想どおりの実刑判決なら予想どおりの実刑判決で、「これ以上、身辺整理期間が必要か?」みたいな裁判官を説得するのに(保釈90所収の二宮論文でも、こういったあしらいを受けた経験談が記載されている)、その事態までを予想すべき原審弁護人としてはなかなか説得材料が見出せないということもあろう。
他方で、特に国選の場合は、控訴してもしばらくは事実上の弁護人不在期間が続く。従って、原判決後の一月強の間、保釈申立ができるのは、控訴までの間の原審弁護人しかおらず、いわば代替性の無い地位であると言うことは、看過されてはならないはずだ。
職務基本規程47条「身体拘束からの解放に努める」に照らしても、申立権限を有しているにも拘わらず、基本中の基本である釈放のための活動を行わなくて良い理由を見出すのはなかなか難しかろう。
結局、(私選の場合は、契約内容次第というところもあるかも知れないので、さておくとして、)国選の場合、被告人からの申立要望がある場合は、事件全体の帰趨を悪くしかねないとか、身体拘束からの解放を却って遠ざけかねない、客観的な正当化事由がある場合を除き、原則として保釈申立義務を負う、と解しなければならないのではないか。
もともと、判決後も一定の訴訟活動が認められるのは、控訴申立までの弁護人不在時期を埋める必要上であると解されている。そうであれば、当面、控訴審弁護人が選任されない蓋然性の高い国選事案では、その権限の負託された趣旨に照らし、申立義務を負わせなければ平仄が合わないと考える。
却って事態を悪化させかねない場合は除外するという留保を付けざるを得ないのは、控訴審の方針が必ずしも原審を踏襲しない場合もある、というところに配慮が必要だからだ。無理な否認をして、原判決で排斥され、控訴審では認めていこう、というような展開を辿る事案も有り得る。その場合に、原審通りの方針で保釈を強行して排斥され、却って事態を拗らせると、あとから批判されかねない。多くの場合は、被告人から再度、保釈のための陳述書を取り付ける手間を惜しまなければ身を守る術としても解決するだろうが、なかなか決めかねて揺れ動く被告人もいるだろう。そういう場合は、例え身体拘束からの解放が遅れても、原審弁護人としては自重すべきで、つまり申立義務から例外的に解放される。
こういうことを考えるのは、無論、そういう事例があったからである。
X-10日 原審判決(不本意な実刑)
X-1日 親族が法律相談
X日 初回接見、受任
X+8日 資料引継ぎ完了
X+12日 身元保証書等作成
X+13日 保釈申立(認容、検察官抗告なし)
このような経過を辿った事案がある。原審は国選である。
控訴審を受けた当方では、資料引継ぎから5日で保釈申立に漕ぎ着けている(連休を挟まなければもう少し早くできたはずだ)。不本意な実刑事案であったからには、無論、被告人は判決直後から保釈を望んでいたし、短期実刑がいわば最悪の結論の事案であったから、上訴保釈の中では保釈が得られやすい部類であったと分析できる(現に検察官も抗告できなかった)。従って、国選弁護人が判決後速やかに保釈申立に進めば、3週間を超える身体拘束は避けられただろうと、傍から見れば思わざるを得ない。あるいは前記揺れ動く被告人の類型だったのだろうか?そこはなんとも分からないが、当方の保釈申立は原審の弁護方針を踏襲したものであり、そうではなかったと思う。
もし、端から関与する気が無く、取り合わなかったのだとすれば、残念というか、残念と言うより不相当である。
(弁護士 金岡)